個人化する観光客の取り込みに必要な商品はバスの運行形態そのものに限らない。貸し切りバスを使うバスツアーや、自家用車やレンタカーなどを使うクルマ旅行と比較すると、鉄道や高速バスなど公共交通を乗り継ぐ旅行の弱みの一つが、手荷物である。特に、荷物が大きいFITの場合はストレスが大きい。
私たち自身が海外を周遊旅行する際を考えても、荷物は二つに分けている。ガイドブックやカメラなど観光する際に手元に必要なものを入れた小さなカバンと、宿泊先でのみ必要な洗面用具や着替えを詰めた大きなカバンである。
例えば、都内のホテルに宿泊したFITが、富士五湖→松本→高山と周遊し、京都や大阪に向かおうとしたとする。「バスタ新宿」から河口湖駅までは30分間隔で高速バスが走っている。河口湖駅からは、周辺の観光施設を循環するレトロバスが運行されているし、両者をセットにした企画乗車券も設定されている。
だが、大きな荷物を持ったFITは河口湖駅で高速バスを降りた後、宿泊先でしか使わない大きい方のカバンを、同駅のコインロッカーに預けるべきか(その場合、観光の最後に必ず再び同駅まで戻ってくる必要がある)、先に宿に向かってそれを預けるべきか、どちらにしても時間的にロスが発生するし、心理的なストレスも大きい。
都内のホテルを出発する際に荷物を預ければ、夕方には河口湖の温泉旅館に荷物が届いている、という環境を整備することが必要だ。通常の宅配便だと一晩かかり翌日の配送となってしまう。
都内ホテルでの集荷と河口湖周辺の旅館への配送は宅配業者が行い、新宿→河口湖駅の輸送は高速バスの床下トランクを活用するようなモデルを開発しないといけない。政府は「手ぶら観光」推進に熱心であり、かつ、たまたま「貨客混載」に関する規制が緩和されたところである。
このモデルを実現するにはハードルが山ほどあることは承知しているが、いつかは多くの主要路線で実現したい取り組みである。
(高速バスマーケティング研究所代表)