このように、バス乗務員不足の問題はその要因を三つのレイヤーに分けて整理することができる。
■要因1
「団塊の世代」がリタイアした一方で、少子化が進行しているため、この国全体で構造的に人手不足の状態にあること
■要因2
バス業界の規制緩和の結果として、バス乗務員の必要総数が増加しており、その結果として乗務員の供給が追い付いていないこと。一方で、現役乗務員の高齢化が進展しており、今後さらなる不足が懸念されること。
■要因3
仕事自体が、「1台に1人、必ず必要」なうえ、運転できる時間など細かい規制があるため、「皆で少しずつ負担し欠員分をカバーする」という対応が困難なこと
この三つの要因を切り分けて、バス事業者、および事業者団体や行政当局は、適切に役割を分担しながら問題解決を図っていく必要がある。
さらに、過去数年に相次いだ貸し切りバスの大事故の際、マスメディアによる報道が「バス乗務員は過酷な職業」という印象を社会に与えたことが、なり手不足に拍車をかけている。
これらの事故は、いずれも法令順守や安全確保についての意識が全く欠如した零細バス事業者で発生している。当該乗務員の勤務の実態が過酷なものであったことは確かであるが、率直なところ、極端な例であり必ずしもバス業界の全体像とは一致しない。
一方、公営交通(市営バスなど)の民間への委託や大手私鉄によるバス部門の分社化などにより、一流とされるバス事業者で、過去約20年、給与水準の切り下げが続いた。
現在の彼らの待遇が十分かどうかは別として、また労働組合らがその改善を主張することは当然のことではあるが、大手事業者の極めて恵まれた労働環境が切り下げられたことと、一部の「ブラック企業」の過酷な現状とが混線して社会に伝えられたことが、なり手不足をさらに助長しているという事態は、改めないといけない。
(高速バスマーケティング研究所代表)