いわゆる「団塊の世代」が65歳を迎えたのが2012年であり、その頃から多くの日本企業で人材不足が懸念されていた。併せて、バス業界では00年の規制緩和によって貸し切りバス事業への新規参入が続いており、それに伴って乗務員のポストも増えていたことから、本来ならその頃に人手不足が顕在化していてもおかしくなかった。
だが、経済が低迷する中で国内企業の多くは「リストラ」という呼び名で雇用者数の調整を進めていた。バス乗務員という職業は「手に職がつく」ということもあり、経済不順だからこそ志望者が増加していた。
ある大手私鉄系バス事業者では、その頃に中途採用した乗務員の4人に1人が4年制大学卒業者だったという。それだけに業界の危機感は小さかった。
乗務員不足が最初に顕在化したのは、東日本大震災(11年)のあと、宮城県など被災地でのことであった。復興需要が旺盛で、バス乗務員よりもダンプカーや資材運搬などのトラックに乗務する方が高収入を得られる「逆転現象」が起こったのである。
そして13年ごろから、経済が回復基調に入ったこと、為替レートなどの影響で製造業の国内回帰が進んだことから、現役乗務員が他業種へ流出するとともに新たな志望者も減少し、全国的に乗務員不足が一気に顕在化する。
そのような経緯により、各バス事業者の採用担当は「待ちの採用」から「積極的な志望者獲得」へと急速にかじを切ることになった。
そこで、採用支援サービスを行っていたリッツMC株式会社が14年7月、バス乗務員に特化した求人情報サイト「バスドライバーnavi(どらなび)」を立ち上げ、筆者はその監修を担当することにした。ミッションは二つ。短期的には、サイト上での比較検討を容易にすることで求職者と求人企業の正しいマッチングを行い、生産性や定着率を上げること。
長期的には、社会への情報発信や各事業者へのコンサルティングにより、「女性」や「若年層」に象徴される新しい「なり手」を創造することであった。
(高速バスマーケティング研究所代表)