バス乗務員に対する人事評価制度の導入が、大都市部にある大手私鉄系事業者に限定されがちである理由は、コストの問題以外にも存在する。
この制度を、公平かつ透明感をもって運用するための鍵が、第三者(アルバイトの「添乗モニター」ら)による覆面添乗調査であることはすでに述べた通りだ。この添乗調査は乗合バス(地域の路線バス)については行いやすい。もともと不特定多数の乗客が途中の停留所で乗降するわけで、その中に混ざって調査を行えばいい。
また、1人のモニター役が1日の間に何本ものバス(何人もの乗務員)に乗車し効率よく調査を行うこともできる。
しかし、高速バスの場合、対象となる乗務員の勤務シフトが決定した時点で、その便が予約で満席となっていたり、調査に適した前方の座席が埋まっていたりした場合、添乗調査を行うことはできない。1本の乗車に数時間かかるから調査の効率も悪い。
それでも、高速バスの場合は、最近ではOTA(予約サイト)のレビュー(口コミ)などを活用することで、少なくとも接客態度などについては評価を行うこともできなくはない。
だが、貸し切りバスの場合はそうもいかない。教育旅行(遠足や修学旅行)、旅行会社のバスツアーなどが主な用途であるから、モニターが覆面で乗車するというのは現実的ではない。
旅行会社の添乗員らから評価をフィードバックしてもらうことも多いが、長時間一緒にいる相手であるので客観的評価とは限らない。少なくとも、基本給にまで差をつけるような人事評価制度のために、添乗員らの評価を活用するのは無理があるだろう。
そのため、路線バス以外の業態においては、人事評価に使える情報は個々の乗務員の事故歴や勤怠の状況、あるいは明らかな苦情といった限られたものになってしまう。
路線バス以外の業態における客観的な人事評価の在り方については、今後の研究課題だと言える。
(高速バスマーケティング研究所代表)