ここまでバス業界、とりわけ貸し切りバス事業と高速バス事業を中心に、業界の課題などを説明してきた。今号からは原点に戻って、ツーリズム産業におけるバス業界の役割や、乗り越えるべき課題を展望する。
バスの事業は、BtoC事業である乗合バスと、BtoB事業である貸し切りバスに大きく二分できる。前者はさらに、地域公共交通としての路線バス(「平場」の路線バス)と、それ以外(高速バス、空港連絡バス、定期観光バスなど)に分けることができる。
これまでツーリズム産業と関係が深かったのは貸し切りバス事業である。団体旅行や企画旅行の足として活用されてきた。一方の乗合バス事業は、ごく一部の観光地路線や定期観光バスを除けば、ツーリズムとは少し距離がある存在であった。一見は観光と親和性が大きそうな高速バスも、実際には利用者のほとんどが出張客や用務客で観光客の比率は小さい。
しかし、市場環境が変化する中で、その関係にも変化が求められている。
社員旅行をはじめとする「社会的旅行」の減少や、少子化による教育旅行市場の縮小により、団体旅行のニーズは長期的スパンで減り続けている。貸し切りバス分野の規制緩和(2000年)を受けた運賃低下もあって一時は人気を集めた「格安」の国内バスツアーも、バスの安全規制強化による運賃再上昇によって、再び縮小している。そもそも、「団塊の世代」を中心的顧客として捕まえてはいるが、その次の市場を発見できていない。
ツーリズム産業全体としても、「社会的旅行」や「できあいのパッケージツアー」といった「昭和の旅行」から脱却し、旅行者一人一人の興味関心に基づいたオーダーメイドの旅行を提供しなければ、余暇の過ごし方が多様化した今、旅行という時間とお金の使い方を選んでもらえなくなる、という危機にあるはずだ。
そこで、今後、バス事業とツーリズム産業との関係はどうあるべきか。とりわけ、旅行会社やOTAなど「旅行流通のあり方」に注目しながら、この問題を考えたい。
(高速バスマーケティング研究所代表)