ここまで、バス業界が直面する乗務員不足について考えてきた。まとめると以下の通りだ。
まず、「団塊の世代」(各年齢の人口200万人超)が引退した一方、現在の若年層は各年齢が約125万人に過ぎず、生産年齢人口の減少が続く。人手不足は国全体の問題で、求人に関する環境が従来とは全く変化してしまった点を皆が理解する必要がある。
採るべき手は、「プル型施策」「プッシュ型施策」「リテンション施策」に分けられる。
まず、もともとバス乗務員を仕事候補だと考えている求職者を、他社ではなく自社に導く「プル型施策」である。具体的には、バス乗務員に特化した求人サイト活用などだ。
次に、これまで活用が遅れていた若年層(特に高校、専門学校、大学などの新卒者)や女性に、バス乗務員という仕事を認知してもらう「プッシュ型施策」である。
足元での成果(採用数)にこだわらず、長期的に「市場を育てる」という意識をもって、マスメディアの活用など積極的に情報発信を行う必要がある。
三つ目が、現役の乗務員の離職を防止する「リテンション」である。公平で透明、かつ現場に過度のストレスを与えることのない人事評価制度を確立し、真摯(しんし)に取り組んでいる者が正しく評価され処遇を受ける仕組みを作ることが求められている。
個別の事業者によるこれらの取り組みのほか、業界横断的なアプローチも必要で、特に、「プッシュ型施策」においては重要だ。現在、大型2種免許の受験資格(年齢要件)緩和の検討が進んでいるが、これも業界として取り組んだ結果の一つである。
近年、法令順守、安全確保意識が大きく欠如した一部の貸し切りバス事業者において続いた重大事故によって、バス乗務員のイメージは必要以上に大きく傷ついた。もし、再び同様の事故が発生するようでは、求人はさらに困難になろう。バス運行に欠かせない乗務員確保というミッションは、なにも「人事部」だけの課題ではない。
日々の運行を安全に遂行するとともに、現役乗務員のリテンションに直結する現場にこそ、その鍵があるのかもしれない。
(高速バスマーケティング研究所代表)