今日、インバウンドは急速にパッケージツアーからFITへとシフトしている。バス業界におけるインバウンド対応の主役は、パッケージツアーで利用される貸し切りバスから、FITが乗車する高速バスへと変化しつつある。
いったん高速バスから話はそれるが、2000年の規制緩和(需給調整規制の撤廃)を機に貸し切りバス業界では新規参入が増加し、運賃制度は形がい化して価格競争が始まった。その価格競争が最も進んだのは、主に中国や台湾などからのインバウンドツアーの分野であった。
インバウンドツアーは、4泊5日など行程が長い上、当日、添乗員からの要請により立ち寄り地点が頻繁に変更となるケースも多い。そのような商習慣によって、厳格な運行管理を行う大手バス事業者らにとって受注しづらい商品であった。
国内の大手旅行会社などからの受注を見込めない零細な新規参入事業者らが、手配代行業者を通すなどしてこれらのツアーの運行を受注していた。結果として、インバウンドは「安かろう悪かろう」の新興零細事業者の代名詞となった。
東日本大震災の後、インバウンドツアーが減速した中で、そのような事業者が国内客向けの高速ツアーバスの運行に進出して発生したのが12年4月の関越道バス事故である。この事故を受けて、改めて貸し切りバスの運賃制度が厳格化され、旅行会社がバス事業者に支払う貸し切りバス運賃(チャーター代)の相場が上がったことは以前にご説明した。
その新運賃制度と、インバウンドツアーがいったん増加したことの相乗効果で、15~16年にかけてそのような零細な新規参入事業者も大いに収益を増加させた。だが、急速にFIT化が進展する中、彼らの稼働率が再び低下し、折からの安全規制強化によるコスト増に耐えられず、多くの零細事業者で経営状態が悪化しているといわれる。
彼らが、以前のように安全性を軽視したずさんな事業運営に戻ってしまうリスクが、FIT化の負の副産物である。
(高速バスマーケティング研究所代表)