前回まで「高速バスと観光」と題し、今後のわが国のツーリズム産業において大きな役割を果たすであろう高速バス事業について、あるべき姿を考えた。今号からは、高速バス事業に欠かせない「バスターミナル」のあり方について考える。その理由は、「高速バスと観光」の中でも述べたが、東京や大阪などの都心部では高速バスターミナルが不足気味で、そのことが観光地へ向かう高速バス路線や定期観光バスの路線(コース)設定ないしは増便の制約条件となっているからである。
確かに、2年前(2016年4月)には新宿駅真上に新しい高速バスターミナル「バスタ新宿」が開業したし、それを追うように東京駅前をはじめ全国でバスターミナル建設も進んでいる。
公益性が大きい事業とされ、自治体などが都市再開発などに際してバスターミナルを新設してくれることは業界にとって大変ありがたいことだ。
その半面、路上発着していた高速バスが新設バスターミナル発着に集約されることになれば、高速バスの新設、増便の制約条件が結果としてさらに厳しいものになってしまうリスクもある。
上手に建設し、上手に運用しなければ、観光分野でのその都市のポテンシャルを縛ってしまうことも想定されるのである。例えば、これまで貸し切りバスをチャーターして移動する団体ツアー中心であったインバウンドがFIT化することで、都市から観光地へ直行する高速バスで移動したり、都市内や近郊を周遊する着地型ツアーおよび定期観光バスに参加したりするようになる。
ツアーの貸し切りバスは、宿泊施設や観光地(東京でいえば銀座や秋葉原の免税店、または浅草など)に直接横付けされていた。だが、FIT化が進めば、高速バスや着地型ツアー、定期観光バスの乗車地として、東京駅や新宿至近のバスターミナルを利用するようになる。その発着枠が、富士五湖、草津などへの高速バスや「はとバス」の便数を制約するようでは、東京やその近郊の観光のポテンシャルを毀損してしまうのである。
(高速バスマーケティング研究所代表)