20年前ほど前から、ツーリズム産業の関係者らがぼんやりと描き続けてきた旅行の未来像――着地型旅行商品が充実し、宿泊施設のあり方も多様化し、それらをウェブ上で旅行者自らが「マルチ・ダイナミック・パッケージ(マルチDP)」機能を活用し組み立てていく「オーダーメイド型のパッケージ旅行」。
ところが、予測された通りの変化は必ずしも実現していない。
例えば、宿泊のあり方は、予測通り多様化が進んでいる。既存旅行会社に販売を頼り切っていた頃、宿泊施設は大型団体を受け入れる設備やオペレーションが重要とされていた。個人客についても、紙の旅行パンフレットや基幹システム上の少ない情報量を元に旅行会社店舗が販売しても「当たりはずれ」がないよう、没個性的な宿作りが主流であった。
しかし、「楽天トラベル」など予約サイト(OTA)普及によって環境が大きく変わった。
既存旅行会社が取り扱えない小規模な宿泊施設でも、全国規模の流通網に乗った。また、これらのサイト上に掲載できる情報の量は、紙のパンフレットに比べると無限大と言ってもいい。サービス内容やそれに伴う画像を、宿泊施設自身がアップロードできる。客室の在庫や料金の管理も含めて、商品造りの主導権が旅行会社から宿泊施設自身に移った。
その結果、特に旅館は多様化が進んだ。むろん、引き続き大型団体や既存旅行会社への依存度が大きい宿も多いが、それも含めて多様化とみていいだろう。
「日本のツーリズム産業は将来こう変わるべし」とされた未来像に最も近づいているのは宿泊施設だと言える。
流通のあり方の変化に加え、クルマ(自家用車やレンタカー)旅行増加の影響も大きそうだ。クルマ旅行の場合、旅程作成が比較的容易である上に事前予約が必要な要素はほぼ宿泊だけであるから、旅行者自身がウェブ上でじっくりと宿を選んで予約できるからだ。
逆に、クルマ旅行以外では、旅程作成や予約・手配の作業が複雑なため、未だパッケージ旅行の比率が大きいのだろう、と推測される。
(高速バスマーケティング研究所代表)