「世界一の観光都市」東京を目指して
五輪・パラリンピック 魅力発信のチャンス
「旅館」を世界共通語に
2020年の大きな話題は何といっても東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの開催だろう。日本中の期待が高まる中、ホスト役の東京都はどんな体制で世界の観戦者や観光客を迎えるのか。五輪・パラリンピックを契機とした観光振興策、さらにその先の取り組みは―。小池百合子東京都知事に聞いた。(東京都庁知事応接室で、聞き手は本社取締役編集長・森田淳)
――五輪イヤーを迎えて、現在の心境、改めて思うことは。
いよいよ東京2020大会の年を迎えました。大会の成功はもとより、その先の日本、そして東京の持続的な成長を考えると、とても重要な1年になります。都政にとっても、大きな節目を迎えることになります。
2020大会は、国内外からアスリート、観戦者、応援者、メディアなど延べ1千万人を超える方が訪れると見込まれており、東京の魅力を世界に発信する絶好のチャンスといえます。
大会で東京を訪れる方々に、楽しんで、満足していただけるように、その魅力を積極的に発信するとともに、旅行者を迎える環境を確実に整えることで、万全を期していきたいと思います。
――世界の観光客に訴えたい東京の魅力とは。
「伝統」と「革新」が調和し、共存しているところです。
キャッチコピーは「Tokyo Tokyo Old meets New」。日本語で言うと温故知新でしょうか。浅草など、江戸の情緒あふれる地域もありますし、丸の内や新宿など、高層ビルが立ち並ぶ地域もあります。また一方で、奥多摩には豊かな緑があり、葛西海浜公園にはラムサール条約に登録される、渡り鳥が訪れる湿地があります、というように、非常にダイバーシティ(多様性)にあふれています。
さらに、ミシュランの星付きの店がパリよりも多い。食の魅力はどこにも負けません。
東京をぜひ、さまざまな切り口で楽しんでいただきたいです。
――2019年に発表された「PRIME観光都市・東京 東京都観光産業振興実行プラン」の進ちょく状況について。着実に遂行されているか、感触はいかがですか。
東京都観光産業振興実行プランは、各界のさまざまな有識者の方から意見をいただいて、練り上げたプランです。
三つの柱からなっています。まず、「世界一のおもてなし都市、東京の実現」では、例えば無料Wi―Fiなど、通信環境の整備、観光案内の多言語表記を進めております。
バリアフリーの観点では、「OPEN STAY TOKYO 全ての人に快適な宿泊を」というスローガンのもと、宿泊施設のバリアフリー化を進めています。「建築物バリアフリー条例」を改正し、居室の入り口を車椅子でも通れるようにと、全国で初めて、一般客室に対してのバリアフリー基準を定めさせていただきました。既に、9月1日から施行しています。
宿泊事業者の皆さまには、そのための費用を補助させていただいています。これは、パラリンピックなどで障がいを抱える方々がたくさんお泊まりになるというだけではなく、これからの日本の高齢化を考えますと、非常に大事なことです。快適な宿泊の確保は、まちの魅力を向上させることにつながります。
柱の二つ目は「世界の旅行者を楽しませる旅行体験の創出」です。地域の特色を生かした観光資源の開発や、ナイトライフ観光の振興などで、都内各地の多彩な魅力を楽しんでいただきたいと思います。
三つ目の柱が「旅行地としての世界的な認知度の向上」です。世界に向けて観光プロモーションを行うほか、国際会議、海外企業のビジネスイベントの誘致をしています。2018年には、「世界水会議」を誘致し、会議でいらした方々に、会議後のお楽しみの場に浜離宮を使っていただくなど、都内の見どころをアピールしています。
これらの取り組みで、2018年、訪都外国人が1424万人と、6年連続で過去最高になっています。アメリカの富裕層向けの旅行雑誌「コンデナスト・トラベラー」では、読者が投票する「世界で最も魅力的な大都市のランキング」で4年連続1位と、人気を保っています。
――観光客の増加とともに、オーバーツーリズム、違法民泊などの問題が発生しています。対策をお聞かせください。
先日、友人が高尾山に行きましたら、「聞こえてくるのが外国語ばかりだったよ」という話でしたが、一部の観光都市のように、普段の生活に支障を来すまでの状況には、東京はまだ至っていないと思います。それだけキャパシティが大きいということかと思います。
しかし、持続可能な観光であり続けるための、さまざまな工夫は必要です。
違法民泊の問題ですが、民泊そのものは比較的安価で、日本の生活を直に体験できるメリットがあります。一方では違法な形で、1棟丸ごと、マンションがいつの間にかホテルになっているような例もあると聞きます。
いずれにしても、民泊については、都としても適正な運営に取り組んでいきたいと考えています。
――五輪後の東京観光について。さらなる振興へ、行政が取り組むべきことは。
五輪の後、経済が急に冷え込むといった事例が、これまでもいくつかありました。
一方で、例えばロンドン大会は成功したとよく言われています。それは、パラリンピック大会が大きく盛り上がったことと、大会終了後も観光客が増え続けたことが、そう言われるゆえんだと思います。
東京も、大会が終わってからもさらに、引きも切らずに観光客が来るようにしたいと思います。多くの観光客が訪れるであろう大会期間中に、さまざまなPRを行っていきます。
受け入れ環境のさらなる整備も必要です。ナイトライフ観光や、地域の観光資源の開発も引き続き行います。
さらに、戦略的な観光プロモーションで、レジャーとビジネスの両面から、「一度は行ってみたい東京」という情報を、さまざまなツールを活用して、しっかりと発信していきます。
旅行者と地域住民が共存する。あるいは都民と多様な旅行者が交流する。「東京に行って、人とのふれあいができてよかったね」と、そんな味のある観光を、東京という舞台で作っていきたいです。
――本紙読者の旅館・ホテル経営者、観光事業者に、五輪イヤーの年頭に当たりメッセージをお願いします。
いよいよ東京2020大会本番の年を迎えました。
世界の多くの方々に「また行ってみたいまち、東京」と感じていただけるような、おもてなしを、ぜひ、皆さま方にお願いいたします。また、東京都としても、「外国人おもてなし語学ボランティア」育成講座を開催するなど、後押しをしてまいります。
東京には羽田空港、そして近隣には成田空港があります。その日本の玄関口から東京を楽しんでいただき、そして東京からさらに日本の各地を訪れて、楽しんでいただくことで、日本のファンが増えるような取り組みができればいいと思います。
「旅館」という言葉が、世界の共通語になればいいですね。外国の方が来るからと、寝床をベッドにしなければならないということではなく、むしろ畳と布団の方が日本らしいおもてなしにつながるのではないでしょうか。
いろいろと工夫をして、伝統にもこだわりをもって、世界中の方々に喜んでいただけるおもてなしをしていただければと思います。
五輪のマスコット「ミライトワ」、パラリンピックのマスコット「ソメイティ」と
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