――観光業界にとって18年はどんな年だったか。(聞き手・内井高弘)
「7月の西日本豪雨、9月の台風、そして北海道胆振東部地震…相次ぐ自然災害は観光業界のみならず、各方面で大きな影響をもたらした。そんな中、風評被害払拭(ふっしょく)、旅行需要喚起に努めた年だった。当協会でいえば、例えば胆振地震では10月に『北海道を観光で盛り上げる会』、12月には『観光立国タウンミーティング』を札幌市で開催した」
――自然災害時における外国人観光客の対応の不備がクローズアップされた。観光先進国になるにはこの問題をクリアしないといけない。
「まさしく、われわれの教訓にしなければならない。札幌でのタウンミーティングは災害発生時の旅行者対応をどうするかをテーマに、情報提供や受け入れの在り方などを探った。また、人材育成研修緊急プログラムとして、災害発生時に対する研修を自治体などを対象に行う。初めての試みだ。希望する自治体を募り、19年1~2月に実施する方針だ。3カ所ほどでの開催を見込んでいる」
――協会の18年度事業の進捗(しんちょく)状況は。
「人口の減少、東京圏への集中が進む中では、交流人口を増やすべく、国内外の観光客にいかに地方に足を運んでもらうかが課題となっている。国が力を入れているテーマ別観光の誘客事業と連携し、地域ブランドを確立するため『地域ブランド創造部』を新設した。現在、日本酒蔵ツーリズム推進協議会の事務局となっており、9月の『ツーリズムEXPOジャパン2018』では専用ブースを設けた」
「テーマ別観光は目的がはっきりしており、日本人のみならず、外国人も参加しやすい。私も11月中旬に鳥取県湯梨浜町で行われた『ONSEN・ガストロノミーウォーキング』に参加したが、とても充実していた。体験してみて初めて分かった。インバウンドの地方誘客と国内宿泊旅行の増加に貢献できると思う」
――4月に沖縄に支部を設けた。
「地域における拠点強化と地域との連携強化を目的に、沖縄観光コンベンションビューロー内に設けた。7月には開設第1弾の取り組みとして、スポーツ・武道ツーリズムをテーマにシンポジウムを開催。沖縄は海洋性レジャーの印象が強いが、空手の発祥地でもあり、武道の地ともいえる。海洋性レジャーにスポーツ・武道ツーリズムが加わると最強のリゾートになる(笑い)。20年のEXPOジャパンは沖縄で開催されることも視野に入れ、支部活動を活発化させていく」
――DMOの普及にも力を入れている。
「DMOは実践段階に移ってきた。これまで、普及に向け人材育成やコンサルティングなどを行ってきたが、モデル地域での支援を通じ、地域活性化に役立つ事業にしていく。具体的には新潟県観光協会(サクラクオリティの導入支援)、石川県観光連盟(観光分野におけるマーケティング・プラットフォーム構築事業)、草津温泉観光協会(チャットボット<AI>を活用したインバウンド推進事業)、高千穂町観光協会(カスタマージャニーマップ作成および分析環境整備事業)などだ」
――19年はどんな年になるか。注目している出来事は。
「日本で初めて開催されるラグビーワールドカップ(W杯)だ。東京五輪・パラリンピックの前の年でもあり、スポーツツーリズムが盛り上がる年になる。ラグビーW杯は世界の3大スポーツの一つで、世界中から注目される。観戦を目的に多くの外国人が訪れるだろう。9月から11月まで全国12都市で行われるだけに、外国人の地方分散が期待できる。開催期間も長いことから、地域経済、地域観光への波及効果が大きい」
――19年度の重点事業は何か。
「ラグビーW杯や東京オリパラを契機とした地域連携支援として、受け入れ態勢の整備支援、情報発信・共有などに努める。先ほども言ったが、スポーツツーリズムに光が当たる年だけに、各地域の取り組みを調べ、好事例を横展開していきたい。さらに、ボランティアガイドの外国人旅行者に対するガイド技術向上、外国人旅行者に対する心のバリアフリーの解消に向けて、飲食店などへの啓発パンフレット(マナー、多言語メニュー作成、口コミサイト活用など)の作成、配布も考えている」
「このほか、テーマ別観光の推進、DMOや人材育成の支援も引き続き取り組んでいく。また、EXPOジャパンが初めて大阪で10月24~27日に開催される。19年は次のステージに進むことになるが、BtoBを拡充する方向を現実化したい」
――高齢化の進行はマイカー旅行の減少につながる。必然、2次交通網の整備が欠かせない。
「いい観光資源を発掘し磨きあげても、外国人旅行者を含め、観光客がそこにたどり着けなければ宝の持ち腐れだ。観光客の満足度の向上を図り、現地における滞在時間の増加、消費拡大のためには2次交通の充実、強化は欠かせない。観光立国推進協議会の中に専門部会を立ち上げ、検討を始める」
「採算を重視する交通・運輸機関に対し、整備しろといってもなかなか応じてはくれないだろう。新たな視点で考える必要がある。2次交通の利用に際しての企画乗車券・共通パスの関連情報の一元的整理、および情報発信整備が不可欠であり、AIを使った無人走行化など検討すべき事項は多いが、知恵を出し合っていい方向を示したい」
――個人的に、19年はどんな年にしたいか。
「世界的なスポーツイベントがいよいよ始まる年でもあり、私も体を動かし、健康維持に努めたい」
――シニアラグビーなんかいかがですか。
「ラグビーはやるものじゃない。観るもの(笑い)」
日本観光振興協会 理事長 久保成人氏