「インバウンド」が流行語となり、日が経ちました。ビジネスの好機と見なされ、さまざまな方が参入されています。多くの方の知恵により、訪日外国人観光客に喜んでいただける機会が増えたら、それは成熟した社会になります。
外国人宿泊客を受け入れる旅館も増えてきています。外国人を受け入れ慣れていない方へ、VJ大使高橋正美さんの御著書「富士箱根ゲストハウスの外国宿泊客はなぜリピーターになるのか?」(あさ出版)をご紹介します。世界75カ国15万人の外国人旅行客を32年間受け入れてきた高橋さんの失敗から成功へのノウハウが書かれた実用書です。
例えば、入浴法について外国人への伝え方は、脱衣所に掲げてあるわかりやすい図解が掲載してあります。外国人が何に困っているかを察することが大切とあり、その察し方等も記されています。そして項目ごとに「体験的もてなしポイント」が4~5行で簡潔に明快に記されてあるので、これを目に通すだけでも外国人観光客に対しての心構えができます。
ただ本書はノウハウだけにとどまりません。
高橋さんに本を書くきっかけはと尋ねると、「外客との草の根交流(出会い、ふれあい、学び合い)がもたらす喜びや楽しさを自分たちの体験に止めるのはもったいないと思っていた」とおっしゃいました。
第3章「いかに外国人観光客を地元に受け入れるか」や第4章「『もてなし』を通じた国際交流」等は、地域の教育に携わってきた高橋さんだからこその言葉がつづられています。
「インバウンドは経済先行で動いています。それは間違いではありませんが、しかし、経済は目的ではなく手段です。インバウンドを振興させて『外客も、地域も、働くスタッフもハッピーになる』ことを目的とすべきです。そういう心で“もてなしの質”を高めていかなければならないと思います」(高橋さん)。
個で受け入れるのではなく、地域で受け入れることが何より大切ということです。
「外客の人生と本音に目を向けなければもてなしの質の向上には結びつきません。外客本位でまちづくりを考えると外客の態度も変わります。業界人には外客対応能力が必要ですが、一般人には異文化対応能力が必要となります。『地域のもてなし』の質を徐々に向上させていけばリピーターは自然に増えていきます。テクニックやノウハウではないです。心は感じ取るものです。言葉で言い表すものではありません」(高橋さん)。
宿泊施設で外国人観光客対応にお困りの方には本書の前半が教科書の如く導いて下さるでしょう。後半は宿泊に関連する方でなくとも、たくさんの訪日外国人観光客の姿が観光地の風景となっていく中で、観光に携わらずとも心得ておかねばならないことが書かれてあります。ぜひ、ご一読してみてください。
(温泉エッセイスト)