ぽちょ~ん。ちゃぽ~ん。ぴちゃ~ん。エコーがかかったかのような湯の音をバックに、「ねっとりとした湯が私の体を羽交い締めにします」「目の前には、満開の桜が広がり、はらりはらりと花びらが私の肩に落ちました」「さぁ~~て、そろそろ湯からあがりましょうか」
月2回のレギュラー出演をしていたNHKラジオ第一の番組「ごごラジ!」の私のコーナー「温泉ぷ~く、ぷく。。。」で、こんな語りをしていました。
「ラジオ深夜便」をスタートに、「山崎まゆみのぷ~く、ぷく。。。」という冠番組があった時期もありまして、この10年間はNHKラジオ第一にレギュラー出演してきました。大みそかに温泉地から生中継も何度も経験し、ラジオで温泉を語る仕事が私にとっても柱となっていました。
ある日、ふと思ったんです。温泉の話を届けるのに、密閉されたラジオスタジオからでは、あまりにも無味乾燥過ぎる、色気のある音がほしいと。
「リスナーさんに“潤い”を届けたいので、それを音で表現することはできませんか」と担当ディレクターに相談すると、「浴場にいるような放送にしましょう」となり、それからというもの、担当ディレクターが毎回、温泉らしい効果音を作ってくれたのでした。そしてまるで温泉に入りながら語っているかのような放送となったのです。
テレビのような映像も、雑誌のような写真もないメディアで、温泉を語るのは難儀でもありましたが、活字だけで湯の心地よさを伝えるのとよく似ていました。語りでリスナーさんに想像してもらう、読むことで温泉を体感してもらうのは、私にとっては同じ作業でした。
そして、その効果も似ていました。読む行為とラジオを聞き想像する行為は、ともに能動的です。そうやって能動的に情報を得た人は、情報を発信する側に共感を覚えてくれるのでしょうか。聴きながら感想をSNSで呟くリスナーもいますが、批判はあまり見かけず、応援コメントが大多数。私自身も話していて、リスナーさんとの距離の近さを感じていましたし、それがラジオの仕事の醍醐味(だいごみ)でした。
これは書く時に感じる、読者との距離と同じでした。本連載でもそうしていますが、私はいつも一人一人の読者に語りかけるように書くことを信条としています。これはリスナーさんに語る心持ちと同じだったのです。
そして著者と読者の近さ、語り手とリスナーの近さは、熱心な支持者を生みます。
かくいう私も、いま少し手がかかるノンフィクションの取材をしていますが、支えてくれるのはこれまでの著作を読んで下さった読者の皆さんです。
温泉地や宿の魅力を発信する場合、ラジオや活字媒体を使うとコアなファンを増やしていけますよ。
(温泉エッセイスト)