前回に続き、「同じ独自価値を考えるならこういうものを」というポイントについてお伝えしていく。
(6)ブランド構築にも通じるものを
私たちは「ブランドの向上」というものを経営の重要な政策分野として位置付け、しっかり考えていく必要があると考える。ただ残念ながら、多くの旅館が家業からの延長線上で営まれているせいもあってか、このことがまだあまり意識されていない。ブランドというと、大手メーカーや高級服飾品の世界のことで、「ウチには関係ない」と思われがちだが、それは大きな間違いである。
「ブランド向上なくして付加価値向上なし」とあえて言おう。これは決して誇張ではない。旅館業も同じである。付加価値を高めたいと思ったら、ブランド力の向上を図るべきであり、また高い付加価値を上げている旅館は、仮に明確に意図していないとしても、無意識のうちにブランドの向上が実現されている。
「無意識に実現するなら、別に考えなくてもいいではないか?」
そのような反論もあるかもしれない。だがそうではない。ブランドを意識することによって、いろんなものをブランドと関連付けて考えるようになる。ブランドというターゲットに向けて、思考と資源投入のベクトルが合わせられるようになる。つまりそれだけブランド向上のエネルギー効率が高まり、実現のスピードが速くなるのだ。
そして他でもない「独自価値」は、ブランド形成の中核となるべき最有力候補といえる。ブランドを意識することで、独自価値をもってブランドを築き高める、また反対に、ブランドにひも付けて独自価値をより輝かせる、といった相乗効果も生まれる。
(7)レバレッジ効果の高いものを
レバレッジとは「てこ」。小さな力で大きな物を動かすことのできる道具のことだ。これと同様に、小さな投入エネルギーをもって大きな効果を生むことを「レバレッジ効果」と言う。
独自価値を考えるにおいては、高いレバレッジ効果が期待できるかどうかを一つの尺度としていただきたい。
例えば施設は、お金さえかければいくらでも豪華なもの、立派なものはできる。それはおそらくお客さまにも、価値あるものとして感じてもらえるだろう。これも確かに独自価値といえるものになるかもしれない。しかし「投入した価値≧生んだ価値」だとしたら、これは商売でも経営でもない。
独自価値の大きさや効果は、つぎ込むお金によって決まるわけではない。小さなお金で、より大きく、より寿命の長い効果を生むことにこそ、取り組む意義があるのだ。このことを、初めから最後まで、しっかり踏まえておくことが肝要である。
とはいうものの、コストをケチるだけが能ではない。中長期的に戦えるような特徴を持とうというのだから、むしろそこには思い切った資金や人的努力の投入がされてしかるべきなのである。
単なる大金投入と、生きた投資となる独自価値づくりとを分ける要素は二つある。
一つは「今眠っている資源がいかに生かされているか」、もう一つは「そこにどれだけの『意味』が盛り込まれているか」だ。
では「資源」とは、「意味」とは一体どんなものか?…。よろしければひとまずここでイメージしてみていただきたい。
(株式会社リョケン代表取締役社長)