人事評価を誰がするか? ということは、割と重要な問題である。小さな会社であれば社長がやればいいが、20人以上ともなれば、そうもいかなくなる。末端の人たちの日頃の仕事ぶりまで、社長が把握することは不可能だからだ。
その場合、一般的にはまず直属上司が行うことになる。直属上司とは…パートおよび一般社員から監督職(主任・係長クラス)までに関しては、フロント、接客サービス、調理といった「部門」の長ということになろう。旅館はほとんどが機能別組織(部門が業務上の一つの機能を担う)で、部門ごとに勤務形態や職務内容がひとまとまりになっている。そして、各部門の長が管理職となっているケースが多いからであるが、その辺は組織の大きさや編成により、違いはあって良い。
ここで問題となるのは、本人と直属上司との人間関係だ。分け隔てなく見ることができればよいが、日頃仕事上の接点が多いがゆえに、個人的な性格の折り合いや、えこひいきといった感情が入り込みやすい。これを補正する意味で「上位評価」がある。直属上司1人に評価を委ねるのでなく、その上の立場にある者によって再評価するのである。単体の施設であれば、直属上司と、その上の総支配人ないしトップ層(社長ないし役員)の2段階、多くても3段階ぐらいまでだろう。また管理職以上に対する評価は、総支配人、トップ層の2段階ぐらいで可能と思われる。下位役職者による評価と上位役職者の評価に食い違いがある場合は、上位の評価が優先される。
評価はどうしても、人によって異なる。また同じ人でも、その時の心境や周辺要因によって評価はぶれる。これを「評価エラー」と呼ぶ。例えば次のようなものがある。
ハロー効果…何か突出した長所が印象となって、他の評価まで引き上げてしまう。
中心化傾向…評価に自信が持てず、真ん中付近に集まってしまう傾向。
寛大化傾向…評価が甘くなりがちな傾向。
期末誤差…期間全体を通してではなく、評価を行う期末近辺の印象で評価してしまう。
こうしたエラーを避け、評価の適正を図るため、「評価者研修(訓練)」というものがあり、さまざまな外部機関で行われている。
しかし、このようにして是正を図ったとしてもなお、傾向や誤差を完全には排除できない。だから上位の評価者は、下位の評価者の傾向(評価のクセ)を踏まえて、より公正な評価を心掛ける。特に最終的に判断するトップ層は、部門エゴイズムや、自部門の部下を高く評価しようとする意識が働くことも踏まえ、全体の評価バランスを図ることが大切である。さらに、経営者といえども神ではない。なお誤った評価となることもあるであろう。しかしそれはそれで仕方ないと割り切るしかない。そればかりをとことん追求してもあまり意味がない。裁判ではなく経営なのだから。
評価の適正化の目的は、公正、公平な評価を行うことにある。そしてそれは、会社としての望ましい人材処遇や人材活用を目指し、一方で社員の働きがいを高めるためであることを、しっかり認識することが何より大切だ。
(株式会社リョケン代表取締役社長)