旅館業界がコロナ感染症のあおりを受け始めたのが今年2月。3~4月ごろから、多くの旅館が先々の運転資金借り入れを始めたものと思う。本欄では当初、向こう半年ぐらいをしのいでいけるだけの手元資金確保を呼び掛けたが、間もなくその半年も過ぎようとしている。そして残念ながら事態好転の見通しはまだ立っていない。ここでもう一度、この先のかじ取りを考えておく必要がある。
(1)追加運転資金の調達
手元資金が底をついてきているところはむろん、まだ余裕のあるところも、もう少し先をにらんで再度資金繰りの見通しを立て、必要に応じて早めに金融機関に相談しておきたい。どれくらい先までか?…確たる根拠はないが、少なくとも来年3月いっぱい、できれば9月末ごろまでを見通しておくことが望ましい。融資の実行が今である必要はないが、予定の内諾だけは取っておこう。次に述べる収支計画をしっかり立てる上でも重要な前提だ。資金が足りる、足りないで追われるような状況では落ち着いた経営判断もできない。
なお借り入れに当たっては今後のことを十分考慮して、返済はなるべく長期に、据置期間もできるだけ長くしてもらうよう交渉したい。また既往借入金の返済と見合わせて検討すべきことは言うまでもない。
(2)まずは「発生主義」で収支尻を見る
予測を立てるに当たって、いきなり資金繰り表を作るのはお薦めできない。まずは毎月の収支を「発生主義」で捉え、月々の「収支尻」を見ていくべきである。発生主義とは、支払いをした、しないにかかわりなく、その月にかかった費用をその月に上げるやり方である。対して、支払いの時点で上げる方式を「現金主義」(収益は「実現主義」)という。何よりも資金繰りを考えなければならないこの時期に、発生主義で見るのは現実的でないと思われるかもしれないが、そうではない。
旅館業は季節変動が激しい。コロナ禍の中でも売り上げの多い月と少ない月がある。だからその月ごとの収支尻を見て、採算が取れるかどうか、どれほどの赤字になりそうかを見極めることが肝要だ。従って売り上げも雇調金収入も、その月の分はいったんその月の収入として見込む。これが現金主義では訳が分からなくなる。どうしてもドンブリ勘定になり、経費コントロールも成り行きになりがちだ。いったんこれを作ったのち、あらためてキャッシュの見通し、すなわち資金繰り表に落とし込もう。
(3)「意思」を織り込む
ここで作る収支見通しでは、売り上げ、費用とも数値に目標を盛り込もう。目標には「経営意思」を込める。「こう見込まれる」に「こうしていく」を加えるのだ。そしてそれを実現させるための方策を併せて検討し、実際に手を打っていく。
(4)今を「平常」と捉える
繰り返すが、「Withコロナ」の状況はまだしばらく続く。収支見通しにおいて、「今はコロナ(=特殊状況)だからしょうがない」という捉え方は、まず捨て去っていただきたい。これを「平常」とする前提で、態勢の立て直しを図ろう。そうでなければ、この先も押し流され続けてしまう。「Withコロナ」で成り立つ運営スタイル、経営スタイルを、一刻も早く築き上げる必要がある。
(株式会社リョケン代表取締役社長)