前回は「営業/休業の判断」を慎重に考えるべきことをお伝えした。その結論となる部分だけ振り返れば、次のようになる。
お客さまの数が少ない日でも、「売上高―変動費」が、「営業することによる固定費増加分(光熱費など)」を上回る見通しであれば、赤字幅を小さくする意味で営業した方がよい。ただし今は、人件費がほぼ変動費になっているので、変動費率が高くなっていることにも留意が必要となる。
ここにもう少し付け加えておきたい。それは固定費にせよ変動費率にせよ、従来あるがままの運営を前提としないやり方がある、ということだ。
①「営業することによる固定費の増加」を小さくする
最も重要なものは水道光熱費だ。営業する場合に、これの増加をなるべく抑えるには…。
(1)パブリックエリアの冷暖房運転を抑える
客数が少ない場合に使わないエリアを区分し、それらエリアの冷暖房運転を停止する。全館集中方式となっているところでも、防火扉などで空気の流通を遮断した上で、そのエリアのファンコイルを止めてボイラーやチラー、冷温水発生器の負荷を減らす。
(2)使用客室のエリアを絞る
予約を受ける客室の階や棟を、初めはできるだけ狭い範囲に限定して、予約の入り状況を見ながら徐々に広げていく。
客室タイプがさまざまに異なるところでは難しい判断が求められるが、経費コントロールを図るなら、ネットのプラン出しで初めは特定の客室タイプに絞っておくなど、細かくハンドリングしていきたい。
(3)部屋食に切り替える
料亭、ダイニングといった会食場での食事提供を一時的に停止することで、こうした広い場所の空調コストを抑える。館内動線によっては、会場だけでなく、そこに至る廊下などの冷暖房運転も止めることができるので、案外ばかにならない。
むろん、部屋食への切り替えはそう簡単にできることではない。行う場合、絶対に忘れてならないのは、厨房と客室階パントリー間(あるいは客室前まで)の運搬専任係を置くことだ。食事の開始時間も、「会場食」の場合よりも余裕を持って分散化させる必要がある。
客数が一定以上になったら会場食に戻す必要もあろう。何人以上になったらそうするのか、また当初受けたお客さまについては是が非でも部屋食でやるのか、それとも食事場所が変わる可能性があることを条件に予約を受けていくのか、といったことを、あらかじめ決めておくことも必要だ。 いずれにしても、「会場食」に比べれば労務コストは間違いなく大きくなるので、どちらが有利か、慎重に試算の上で見極めよう。
(4)大浴場の営業を見直す
真夜中、誰一人入浴するお客さまもいないのに「いい湯加減」に保たれた大浴場は、何の価値も生まない。旅館それぞれのポリシーにもよるが、お客さまの数が少ない場合、経費の観点からはこれの見直しも検討したい。24時間営業を夜は12時まで、朝は6時からとするなどが考えられる。
そしてその間、浴槽にシートなどを被せて、放熱と気化による温度低下を抑える。特に露天風呂では、この効果はてきめんだ。
(リョケン代表取締役社長)