感染第4波の襲来、緊急事態宣言によって、またしても従業員の多くを休ませる状況や、全館休業に追い込まれている旅館も多いことと思う。雇調金により休業分の給与が補填(ほてん)されるとはいえ、ただ休ませているだけで果たしてよいのか…? 今回は教育訓練の積極的な実施を提言したい。
ある旅館では、全館休業期間中も「週に1日」は必ず全員が研修のために出社するようにした。その日は終日、接客の心構えやスキルを身に付けるための教育訓練を行うというものだ。これによって、社員は休業中も仕事への意欲を保ち続けることができ、お客さまを迎える日を待ち遠しく思う気持ちが芽生えたという。
またある旅館では、昨年4~5月の「休館中の平日をすべて」出勤日として研修に充て、雇調金の教育訓練助成の申請を前提に、内容を吟味した研修計画を立てていった。その結果、若い社員を中心に「学ぶこと」への欲求が芽生えて、学びつつ自己成長を目指すという風土が自然に出来上がった。この年採用した新入社員は定着したばかりでなく、予期以上の成長ぶりで、その後もしっかり活躍してくれることになり、秋のGo Toトラベル事業実施に伴う急激な繁忙も、前向きに乗り越えることができた。
旅館における教育訓練は、一般に接客スキルなどの向上を主な目的として行われる。だが教育訓練がもたらす成果はこれだけではない。特にこのような時期では、むしろモチベーションの維持や組織の結束といったこと―「意識づくり」において、より大きな効果が期待できる。
「他部門の仕事を体験し、知ってもらうための研修」を行ったところもある。調理部がお出迎えお見送りの現場を、予約係がレストランサービスを体験する、という具合だ。コロナ禍で出勤社員数を絞っている中、部門の垣根を越えた応援態勢を築く必要からである。しっかりした計画のもとに行われたこともあって、ねらいは十分に達せられた。
しかしここに、思わぬ副次効果が付いてきた。それは「一体感」である。この研修により、日ごろ会話することもなかった他部門の人と話す機会がたくさんできた。それによって生まれたのは、同じ会社で、同じ目的のもとに仕事をしているのだという「共同体意識」である。もともとあって当たり前の意識と言えばそれまでだが、分業化された平常の業務だけではなかなか育まれないのが現実ではなかろうか。これが、厳しい状況下にあるという共通の危機感も手伝って、ごく自然に醸成された。まさに「百の説法」より価値がある。
知識や技能の習得はむろん研修の大事な目的だが、今行う研修として、同じやるなら「意識の共有」をねらいとした内容を組み込むことを考えたい。おすすめしたいテーマは、「理念・ミッション(使命)と日常行動の結びつけ」である。
「私たちは、(1)何のために(2)何を目指して(3)どんな価値をお客さまに提供するか(4)またそのためにどうしていくのか?」―こういうことを改めて考える場を作ってみよう。
前提として、大方の方向付けをするための話を行う必要はあるが、一方通行の講義だけでなく、部署混合グループでの意見交換の形式をとることをおすすめする。
(リョケン代表取締役社長)