では、まず伝統様式にのっとった日本料理から見ていきましょう。
●本膳料理
室町時代から現代にまで続く伝統様式の料理です。膳と名の付くように、折敷(おしき)という30センチ四方くらいの正方形ないし長方形の脚の付いたお膳で出されます。器には漆器が使われます。
本膳料理は、一の膳から多い時は七の膳まであります(四の膳とは呼ばず、与の膳と呼びます)。一の膳のことを本膳と呼びます。 本膳には複数のおかずと、ご飯、汁物、香の物が添えられます。数字が付くと、順番に出されるように思われるかもしれませんが、全てのお膳が一度に並べられるのが本膳料理の特徴です。
一汁三菜という言葉を聞いたことがあるでしょうが、現代ではこれは家庭料理を含め、理想的な和食のバランスを指すことが多いようです。一汁とは汁物が一つ、三菜とはおかずが3品という意味です(ご飯は入れません)。この数え方は本膳料理からきています。本膳料理を略式にしたものを袱紗(ふくさ)料理と言います。これは一汁三菜を最小の構成として、最大でも三の膳まで。本膳料理もそうですが、どちらも三の膳までお酒を出すことはしません。
しかし、時代が下るにつれ、料理の様式も変化し、酒のさかなを載せたお膳が華やかになっていきます。お膳の間のお酒を「中酒」と呼び、豪華な中酒膳を中心に組まれるようになったことが、今の会席料理(酒席料理)へとつながったとされます。
●懐石料理
懐石料理は、正式な茶事でお茶(濃茶)を進める前に出される、ごく簡素な食事を指します。濃茶は濃厚なので、お腹が空いたところよりは、少しお腹に入っていたほうがお茶をおいしくいただけることから、先に食事が出されるようになりました。茶道の祖である、千利休が始めたとされます。
茶事なので、一般の店では本格的な懐石料理を出すことはまれですが、基本的には、一汁三菜で、ご飯、汁物、向付(むこうづ)け、煮物、焼き物が基本です。本膳料理が全ての料理を一度に並べるのに対し、懐石料理は出来たてを提供するのが特徴です。なお向付けとは、手前のご飯と汁物に対して、その向こう側に置くことから付けられた名称で、刺し身や酢の物、あるいはその容器を指します。
現在、日本料理店や旅館ホテルなどで出される豪華な日本料理「懐石」は、そこから発展したもので、正式な「茶懐石」とは違います。
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■日本ホテルレストラン経営研究所=ホスピタリティ業界(旅館、ホテル、レストラン、ブライダル、観光、介護)の人材育成と国際交流へ貢献することを目的とするNPO法人。同研究所の大谷晃理事長、鈴木はるみ上席研究員が監修する書籍「『旅館ホテル』のおもてなし」が星雲社から発売中。問い合わせは同社TEL03(3868)3275。