2カ月に一度の男だけの飲食会。20代から60代のさまざまな仕事をしている男たちが楽しく語り合う。
中にはマジな議論を展開している塊もあり、そこでは「日本はこの状況を切り抜けられるのか」「仕事を見つけるのも一苦労だよな」「未来のために何をやればいいんだろうか」などの話題がさかなとなりグラスが空になってゆく。
そばで耳を傾けていたやや先輩が「それってアニマルスピリットやね」と輪に入っていった。
アニマルスピリットとはイギリスの経済学者であるジョン・メイナード・ケインズが「雇傭・利子および貨幣の一般理論(1936年)」の中で述べた有名な言葉だ。学生のころ頭を痛めながら取り組んだことを思い出す。
そこにあるのは、経済活動は合理的動機に基づいて行われるが、一方で将来の収益を期待して事業を拡大しようとする、必ずしも合理的には説明できない不確定な心理を「アニマルスピリット」としている。
このアニマルスピリットをどうすれば現代の経営に生かすことができるのだろうか。
(1)心理的な要素の理解:経済活動は個人や企業の意思決定によって形成されるのでそれらの心理的要素が大きく影響する。アニマルスピリットは恐怖、期待、自信、欲望などの感情によって形成されることを理解し、経済主体の心理状態を把握することが重要ではないか。
(2)消費者の心理:経営者は市場の需要や消費者の心理状態を分析し、商品やサービスの提供方法やマーケティング戦略を調整することが求められる。消費者の欲望や期待に合わせた魅力的な提案を行うことが重要だ。
(3)投資意欲の喚起:経営者は投資を促進するために、リスクを軽減するための政策や安定した経済環境の提供、将来の収益性や成長の見込みを示す情報の提供などを行う必要がある。
(4)リーダーシップと信頼の構築:経済主体の心理はリーダーの行動やメッセージによっても大きく影響を受ける。経営者はリーダーシップを発揮し、組織内外に対して安定感や信頼を醸成することが重要だ。また、透明性や誠実さを持って意思決定を行い、ステークホルダーの信頼を築くことも忘れてはならない。
(5)政策の適切な調整:アニマルスピリットの影響は単一の企業や個人だけでなく、経済全体に及ぶ。当たり前だが、政府や規制当局は、経済主体の心理やアニマルスピリットを考慮に入れながら、適切な経済政策や規制環境を整備することが求められる。
輪に加わっていた20代の若者の中にはすでに起業しそこそこの収益にあげている者がいたり、今の会社を辞めて新しい環境に挑戦しようとしている中年もいたりする。
どんなに時代が変化してもつくづく基本は通底していると思う。90年前の理論にも学ぶことがたくさんある。改めて、挑戦し続ける人生を送りたいと、年下の男たちの熱気に気づかされた次第。
(EHS研究所会長)