【旅館経営ワンポイント講座 35】二宮尊徳が広めた報徳思想 渡辺清一朗


10年前、企業再生でかかわった宿の若旦那。自館を再生することはかなわなかったが、今は箱根の宿泊施設の責任者をしているとの連絡があり、久々に会いに行った。その後結婚した奥さまや今は一線を退いた元女将のお母さまとも再会でき素敵な時間を共有することがかなった。

その帰り道、海沿いをドライブしようとハンドルを握っていると前方に白い建物が見えてきた。素通りするのはもったいないので久々に小田原城を訪ねることにした。

初夏の心地よい空気に包まれながら、きれいに整備された城址公園を進む。その一角に「報徳二宮神社」を発見、併設された報徳博物館にも伺った。小学生のころ校庭にあった二宮金次郎像の前で「勤勉な金次郎さんは小田原の出身」と先生から教わったことを思い出した。その二宮尊徳が広めた報徳思想とは至誠、分度、推譲、勤労によって道徳と経済を一致させ、富国安民をはかろうとする考えで、以下の言葉は有名だ。

「遠きを謀(はか)る者は富み、近きを謀る者は貧(ひん)す。夫(そ)れ遠きを謀る者は、百年の為に松杉の苗を植う、まして春植ゑて、秋実のる物に於てをや、故に富有なり、近きを謀る者は、春植えて秋実(みの)る物をも、猶(なお)遠しとして植ゑず、只(たゞ)眼前の利に迷ふて、蒔かずして取り、植ゑずして刈取る事のみに眼をつく、故に貧窮す」

「夫れ蒔かずして取り、植ゑずして刈る物は、眼前利あるが如しといへども、一度取る時は、二度刈る事を得ず。蒔きて取り、植ゑて刈る者は歳々尽くる事なし、故に無尽蔵(むじんぞう)と云ふなり」

報徳の三原則は勤労、分度、推譲とされる。「勤労」は生活の基本で自助努力の大原則だが、同時に知恵を働かせ労働を効率化し、社会に役立つ成果を生み出すということを重視する。

「分度」は経済的には、収入の枠内で一定の余剰を残しながら支出を図ること。計画経済の基本だ。この余剰が、明日の、来年のそして未来の生活、生産の発展と永安のための基礎資源となる。

「推譲」は、分度生活の中から生み出した余剰、余力の一部を、各人が分に応じて拠出すること。この原資が、相互扶助あるいは弱者、困窮者救済に宛てられ、地域再生、自治体復興、国家再建が進められるというもの。

国際情勢に右往左往する経済状況、日常となった誹謗(ひぼう)中傷と暴力や紛争、まったくさえない政治状況、それを象徴する都知事選挙などなど、自らの行いだけではどうしようもないことばかりな上に、梅雨の蒸し暑さも加わってパッとしない気分になりがちではある。しかし、実現可能な将来を思い描き今やるべきことを確実に行うことの積み重ねならば誰にでもできる。まだ間に合うと信じて前に進みたい。

ご質問等は、まだ間に合うと信じる私のメールアドレスまでどうぞ。
sero-1117@giga.ocn.ne.jp

(EHS研究所会長)

 
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