標題の通り、「新型コロナウイルスへの…」ということで回を重ねてきたが、ようやく感染が下火になってきた。このまま収まることを願うばかりである。
さて、本連載<148>において、「…頼みの経営」から抜け出すべきこと、またそのために行うべき七つの課題を挙げた。その第1として、ここ5回ほどは「市場開拓」に関する具体的な方策をご提案してきた。このテーマから展開すべき事柄はまだ他にもあるが、ここでひとまず区切りをつけ、今回からは第2の課題、「顧客確保―お客さまを引き寄せ、つなぎとめる」に移りたい。
近年、注目されているマーケティングのフレームに「ダブルファネル」というものがある。ファネルとは「漏斗」(「ろうと」または「じょうご」と読む)のこと。酒瓶に液体を注ぎ込むときなどに使われる尻すぼみの器具である。これになぞらえて、消費者が商品を知ってから購入に至るまでのプロセスを図式化したのが「ファネル」と呼ばれるモデルで、少し前までは、購入までがもっぱら関心の的であった。「AIDMA理論(認知↓関心↓欲求↓記憶↓行動)」に代表される購買心理の段階なども、これに当てはめて説明される。
しかしその後、1人の購入客を「その場限り」でなく、「生涯の客」とする見方をしていくことが意識されるようになったこと、またネットの浸透で消費者同士が広く意見や情報を交換するようになり、購買後の「発信」(早い話がクチコミ)が重視されるようになったことで、下にもう一つ、末広がりの漏斗を置く捉え方がされるようになった。つまり図のような、「ファネル」が二つつながった形になるので、これを「ダブルファネル」と呼ぶ。
説明が長くなったが、話を旅館の顧客確保に戻そう。
このダブルファネルの上半分については、近頃主にネット集客対策のイメージをつかむ上で語られることが多い。実はこのテーマに関して小欄ではまだ触れたことがないが、今日的に重要であり、また少々幅が広い分野なので、いずれ改めて取り上げるとして、ここでは「下半分のファネル」について考えたい。
結論から申し上げると、旅館業はこのファネルをかなりのスピードで通過することができる商売と言える。やりようによっては、一気に一番下の層まで深めることも可能だ。なぜか…。
旅館が提供し、お客さまが享受するのは「体験価値」であり、その良し悪しは単なる評価だけでなく、「心の傾倒度」に直結している。おまけに滞在時間―すなわち消費プロセスにかける時間―が、他のサービス業に比べても非常に長いからである。このことは、実は旅館商売を営む者に等しく与えられた「生かすべき強み」なのだが、このことがあまり認識されていない場合があまりに多い。
そこで次回は、このことについて話を進めたいと思う。
(リョケン代表取締役社長)