【旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 168】新型コロナウイルスへの経営対応55 原理原則3 品質向上9 佐野洋一


 マイナスをなくすための方策についてもう一つ、重要な点を付け加えておきたい。それは「火に油を注がない」ということだ。

 お客さまからの厳しいご指摘やお怒りは普通、いきなりそれほど大きいわけではない。

 最初は小さな「不快」や「困りごと」から始まる。ところがこれに対応を間違えると「不満」↓「苦情」↓「怒り」と発展していく。そうならないための会話テクニックなどもいろいろあるが、特に気を付けるべきポイントは次の2点である。

 ・言い訳、言い逃れをしない。

 ・ほったらかしにしない。

 前者は割とよくいわれていると思う。案外見過ごされているのが後者だ。声に出された不満を放置するのは論外だが、時にお客さまは声に出さなくとも、心の中で不満に思っている場合がある。前回例に挙げた「長い行列」のような状況は他にもたくさんある。

 (ⅱ)攻め=好印象をつくる

 次に、もう一方の重点管理ポイント―「好印象をつくる」はどうあるべきか。

 サービス評価の高い宿が密度の高い接客サービスをしているかといえば、必ずしもそうではない。「どれだけ多くのサービスをするか」よりも、「限られた接客場面を生かして、いかに接客の良さを効果的に印象付けるか」である。

 では何をしたらよいのか…。実をいえば、このための手がかりはいくらでもある。ネットで閲覧可能な他館の「お客さまの声」を少しばかり研究してみることをお勧めする。サービスで高評価を得ている宿が、どんなことをして喜ばれているか? その中から、自館で無理なくやれそうなことを探してみるとよい。

 さて、それはそれとして…弊社では昔から旅館・ホテルに次のような標語をお奨めしている。

 ・ニコニコ、ハキハキ、アリガトウ

 実に単純だが、何十年たっても色あせない不滅のスローガンと自負している。「ニコニコ」とは文字通りにこやかな笑顔。「ハキハキ」とは明朗さと機敏な反応を意味する。そして「アリガトウ」は喜びや感謝の気持ちを言葉にすることだ。

 どれも大事だが、この中から強いて一番を挙げるとすれば「ニコニコ=笑顔」だと思う。これをとことん徹底するだけで、相当な「攻めのサービス品質」につながる。旅館によっては、サービス評価を0・5ポイントぐらい、すぐに上げることができるだろう。疑わしいと思うなら、身の周りのことを思い浮かべていただきたい。いつもニコニコしている人と、むっつり無表情の人…どちらに親しみを覚えるか? 無表情で「いらっしゃいませ」と言う店員が親切だと思えるか? ニコニコ顔は「温かい心」の表れなのである。のみならず、それ自体が当人の心の中に「温かい気持ち」をつくる。そこから親切な態度も自然と生まれやすくなるのだ。

 しかし、否、だからこそ、笑顔というものはそうやすやすとできることではない。研修の場などで「笑顔をつくってみましょう」とやってみても、なかなかできない人が多い。しかも、さらにスタッフみんながいつも笑顔でいるためには不断の心がけが必要であり、またそのための会社を挙げての意識づくりや訓練が必要なのである。

(リョケン代表取締役社長)       

 
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