(6)品質で差別化
近ごろは、客室や館内でコーヒーなどの飲み物をフリーサービスとするところが多くなった。ファミレスなどで手頃な料金のドリンクバーが一般化し、コンビニでかなりおいしいコーヒーが百円で売られているご時世で、コーヒーはじめソフトドリンクの社会通念上の価値は、昔に比べてずいぶん低下した。また宿泊施設の朝食はブッフェスタイルが多くなり、そこではコーヒーや紅茶は食事の一環として提供されるのが当たり前となった。こうした背景もあり、旅館やホテルの館内で、1杯数百円の料金を払ってコーヒーを飲むお客さまは少ない。こうなると、いちいち人が注文を取ってサービスしていたのではかえって採算に合わない。ならばいっそ宿泊料金にインクルードしてフリードリンクにしよう、という判断が行われるようになった。
そのこと自体は間違いではない。ただここで考えておきたい。それは、単に「○○がある」(あるいは「付いている」「出す」)というだけでは、価値に結びついていない場合が多いということだ。館内でコーヒーが自由に飲めることが、自館の客単価アップ、もしくはファンづくりにつながっているだろうか? コストアップだけになってしまってはいないだろうか?
「そんなこと言われても、無しとするわけにもいかないし、仕方ないのでは…?」。
ここで一つの視点を提示したい。それは「品質で差別化」という方向である。ここで言う品質とは「こだわり」を意味する。また、差別化するためには、そのこだわりを「伝える」ことをセットで考える。仮にフリーで提供する場合も、「タダなのだからこんなもんだろう」と済ますのでなく、立ち止まってそれに価値を生ませることを考えるのだ。
例えば、ただ「コーヒー」といえば、それは一般的な観念としてのコーヒーでしかない。しかし「当館のコーヒーはこれこれ、こういうコーヒーです」というこだわりを添えることで、価値を何割か(やりようによっては何倍にも)高められる可能性がある。ポイントは、「それが高品質である理由」―味や香り、手間、コスト、希少性など―を、具体的事実をもって伝えることだ。
また、可能なら、そうまでしてこだわる理由を、宿のコンセプトやポリシーとひもづけするとよいだろう。コーヒーサーバーの横にセンスの良いPOPを添える、あるいは手に取って読んでもらう説明カードを置いておくなどの方法が考えられる。ただし、これらをあまり押しつけがましくやり過ぎると、かえって興ざめしかねないので、さり気なく伝える「ほどほど感性」も大事にしたい。
コーヒーを例にしたが、同じことは食材(魚、肉、野菜、米など)、漬物などの副菜、だし、酒類、さらには家具、寝具、アメニティ、オーディオ機器といった物品にも言える。これらのこだわり価値を100%発揮させるためには、お客さまの意識をそこに集中させるための周辺要素―器、場のムード、提供方法―といった仕掛けにも、同じくらいこだわるのがよい。お客さまをマジックにかけるのだ。実際に品質が高く、その違いが納得できるものであれば、宿の「伝説」づくり、ブランド形成につなげることも夢ではない。
(リョケン代表取締役社長)