「『…頼みの経営』から抜け出す」ために掲げた七つの「原理原則」のうち、「市場開拓」「顧客確保」「品質向上」「情報集め」についてお伝えしてきた。ここから次のテーマ「人心の喚起―緊張感と意欲をみなぎらせる」について考えていきたい。「緊張感」と「意欲」―長い商売の停滞の中で、どちらもかなり低下してしまって、「リハビリ」が必要になっているかもしれない。
(1)緊張感は忙しさについてくる
緊張感とは?…調べてみると「心やからだが緊張する感じ、空気が張りつめる感じ」とある。人為的につくり出す場合もあるが、どちらかと言えば「外的な刺激に対する反応」と捉えてよかろう。
コロナ感染の第7波が、夏を越えたところで落ち着きを見せてきた。どうやら各地で客足が戻りつつあるようだ。団体・グループの予約もちらほら入ってきていると聞く。待望の外国人の入国も、10月には上限が撤廃される見通しとなった。
さてこうなると、程度の差こそあれ、概して業務は急速に繁忙を極めることになる。そうだとすれば、放っておいても緊張感は高まるだろう。緊張感にはミスを予防する効果があるので大事だが、あえて意識する必要もないかと思う。ただ繁忙と疲弊は常に背中合わせだ。多くの旅館で、コロナ前と比べて人が少なくなっている。やみくもに忙しいだけの毎日が続けば、「緊張感」がいつしか「徒労感」となる。「こんなはずじゃなかった」と、若い人などの離職にもつながりかねないので注意したい。
(2)意欲は存続に関わる重要課題
喚起すべき人心のもうひとつは「意欲」だ。意欲とは?…「積極的に行おうとする心」とある。緊張感が「外的な刺激に対する反応」であるのに対し、意欲は「内面から湧きおこる気持ち」だ。そしてこれは、前向きな態度、困難や新しいことに立ち向かう姿勢、創造性などをもたらす。以前は多くの旅館でこうしたものが健全に機能していたことと思う。ところが今、需要の波に翻弄(ほんろう)されているうちに、行き先が定まらないまま置き去りになってはいないだろうか。そしてそのことが「徒労感」につながってはいないだろうか。
旅館は装置産業であり、立地や施設が商売の大半を方向付ける。だからどんなに意欲に満ちあふれていても、それが短期間の業績向上に結び付くとは考えにくい。つまり、意欲自体に今すぐ「攻め」の効果を期待しても無理があろう。だがここで、むしろ気になるのは「守り」だ。組織がこれまで大事に培ってきた精神的基盤が、この荒波の中で失われていないかと懸念される。また好むと好まざるとにかかわらず、個人客主体の営業にシフトすることになり、客層や受け入れ形態が大きく変わった中で、現在のやり方に自館のポリシーなどを整合させる必要も生じているはずだ。人手の確保もいっそう困難となっている今、意欲の管理は大げさでなく、事業の存続に関わる問題とさえ言える。
では、もし意欲が感じられない、あるいは高める必要があると思われる場合に、どうしていくべきか? 一口に言えば、意欲を生みだす源泉となるものを、意図的につくり出していくことである。次回はそのための具体案を考えていきたい。
(リョケン代表取締役社長)