高付加価値化のための方策を、場面あるいは場所ごとに考えている。前回からは客室についてである。
(4)客室(続き)
価値を訴求する場面としては、大きく利用前の見せ方と、実際の宿泊時に伝える価値の二つがあり、どちらも大事にしていきたい。客室もそうだ。宿泊時に伝える体験価値については前回述べた。では利用前の見せ方とは何か? それはとりもなおさず、ネットを通じた表現である。
昔ならいざ知らず、客室を当たり前の客室として見せるだけでは、それ以上の価値を生むことはない。高付加価値化の狙いが「できるだけ高く買ってもらう」ことにあるとするならば、なるべくありきたりな見せ方を排して、非凡を追求したい。
写真は、室内全体を紹介するカタログ的なものだけでなく、そこに「私」がいる場面を想起させるような「情景」を添えよう。特にお勧めしたいのは、窓から見える景色を、広縁や本間に座った目線で、調度品などをからめて撮ることだ。とかく忘れられているが、窓の景色は客室の一番のごちそうであり、客室の価値の半分と言ってもよい。
この他に情景とすべき場所の候補としては、踏み込みや洗面周りなどが考えられる。今どきなら部屋付きの露天風呂なども当然そうだ。ただしここが作戦なのだが、前回お伝えしたような「しつらえ」まではあえて見せず、当日の体験価値(=サプライズ)のためにとっておくとよい。
たいていの旅館は、客室にいくつかのタイプバリエーションがあることと思う。それらをタイプごとに一つ一つ、「こういうお部屋です」と丁寧に紹介しよう。いろんなタイプの客室があることは、それだけで宿としての奥行きの深さを感じさせる価値になる。「みんなだいたいこんな感じ」ということで十把ひとからげに扱わないことだ。
最も数の多い客室タイプを「標準客室」とか「スタンダード客室」と呼ぶところが多いが、この表現はできれば避けたい。「これが普通だ」という安心感のようなものもあるかもしれないが、半面、この表現には何の夢も思い入れも感じられない。ではどう呼んだらいいのか?…。客室のタイプそのものに名前を付けることをお勧めする。「花」でも「潮騒」でもよい、カテゴリーごとに呼び名を付けるのだ。仮に部屋のスペックは同じでも、山向きか、庭に面しているかで変えたい。
そして、それぞれのタイプに込めた宿側の思いを伝えていこう。心地よい川風を感じていただけます、とか、初夏から秋にかけては百日紅(サルスベリ)がきれいです、とか。またその部屋が、どういう人―例えばカップル、気の合う仲間同士、3世代家族、一人旅など―の、どんな使い方にふさわしいか、やはりタイプごとにイメージさせる言葉を添えてみてはいかがだろうか。
このようなことをやっていけば、HPやOTAサイトの中での紹介も、またブログやSNSでの伝え方も、まだまだ彩り豊かなものになるのではないかと思う。そしてそれらが付加価値を高め、売り上げを高めることにつながる。だから「つまらぬこと」と思わずにやっていただきたい。
客室1室造るには千万単位のお金がかかる。その何百分かの一でも精力をつぎ込む意義を知ることが大切なのだ。
(リョケン代表取締役社長)