【旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 188】抜け出す経営への原理原則6 高付加価値化9 佐野洋一


 (5)食事(続き)

 食事の価値を考える上で、「食事にかける時間」の意味は大きい。旅館で供する夕食は、定食のようなものを別としておおむね90分前後といったところだろうか。これがあまり短いのは少し考えものだ。人によって食べる速さに違いはあるが、さっさと出せばそれなりに早く終わる。だが、食事の価値を感じてもらうという意味においては、一品一品をなるべくゆっくり堪能してもらうことが望ましい。

 重要なのは料理と料理のインターバルである。「ほどほどの間」を大事にしよう。しばしばあるのは、次から次へ料理が運ばれて、どれが何だか分からないうちに食べ進むことになったり、箸を着ける頃にすっかり冷めてしまっていたりすることだ。ひどい場合は、食べるのが追い付かず、卓上が料理であふれ返る。しかも後に出されるものほどコッテリしていることも多く、見ただけで気が遠くなる…これでは食事の価値も何もあったものではない。

 お酒を飲む人と飲まない人ではペースが違う。飲まない人のためにどうするかが考えどころである。「間」を持たせる何か―例えば野菜のチップスとかプレッツェルといった、軽くつまめるようなものを出しておくのも方法かと思う。伝統的な和食文化からは外れるかもしれないが、今どきこの程度の型破りはあってよいのではないか。優先すべき目的は「食事の価値を高めること」にあるのだ。

 これからまたグループ・団体の宴会も増えてくるだろう。そこでどうするか、どうなるか、今まさに大きな分かれ道にさしかかっている。コロナ禍でやむなくとはいえ、個人客向けに丁寧な提供スタイルにシフトしてきたところは少なからずあろう。また同時に、ネットによる個人予約が大半となったこともあって、客単価が高まったところも多い。せっかくそういう下地ができたのだから、宴会が増えたからといって、そのままもとの料理、もとの出し方に戻るのではなく、価値のステージアップを意識して踏みとどまりたい。そこで、グループ・団体の会食で、料理や食事の価値を「守る」ための方法をいくつか考えてみた。

 ●宴会でも、料理をしっかり味わってもらうために、あえて席を4~6人程度の島形式とする。

 ●料理に込めた意図を伝え、また食べるペースを落ち着かせるため、料理によっては提供時に「願わしい食べ方」を言い添える。「このようにすると、香りが立っていちだんとおいしくなります」。

 ●サービスの都合から2~3品同時に出す場合も、献立構成の妙を楽しんでもらうため、「食べる順序」や「食べごろ」をさりげなくアドバイスする。「こちらを温かいうちにどうぞ。またこちらは《箸休め》ですので、その後で召し上がっていただくと、お口をさっぱりすることができます」。

 ●薬味やソースの調合、具材の混ぜ合わせ、「載せて食べる」など、お客さま自身でやっていただく所作を盛り込んで間を作る。

 ●お酌に回っている人にも、一度自席に戻ってもらえるような「節目」を作る。

 これらは、どこかで実証したわけでもない、机上の空論だが、いずれにしても工夫の余地はまだあるように思う。「宴会だからしょうがない」と片付けず、ぜひともご検討いただきたい。

(リョケン代表取締役社長) 

 

 
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