海の青さと潮風と詩に心和む港町
山口県北西部、青海島へ細長く突き出す仙崎は、三方を海に囲まれた漁師町。イカ、アジ、ウニなどの漁獲とともに仙崎カマボコで名高いが、終点・仙崎駅に降り立つと、金子みすゞの写真や看板に迎えられる。
ここは大正後期から昭和初期まで珠玉の言葉を紡いだ童謡詩人・金子みすゞのふるさと。駅から北に延びる通りに復元された生家と本館からなる記念館に入って、遺愛の品や詩文、書籍、育った部屋などを多様な展示を見て回った。
生まれたのは明治36年4月11日。20歳で下関に移住。童謡詩の投稿はどの雑誌にも入選。詩壇の大家、西条八十に“若き童謡詩人の中の巨星”と賞賛された。
『大漁』には「朝焼小焼だ 大漁だ 大羽鰮(いわし)の 大漁だ。浜は祭りの ようだけど 海の中では 何万の 鰮のとむらい するだろう」。また『積った雪』では「上の雪 さむかろな。つめたい月がさしていて。下の雪 重かろな。何百人ものせていて。中の雪 さみしかろな。空も地面も見えないで。」。どの詩にも自然や生き物への深い眼差しと優しい心根が息づく。みずみずしい感性と慈しみあふれる言葉は穏やかだが強く深く胸に響く。
26歳の若さでなぜ自らこの世を去ったのだろう。惜しみながらみすゞ通りを歩いた。郵便局や菓子店、八百屋など古い商家や各家の軒下にみすゞの詩を書いた手作りの板が下がる。名物の蒲鉾板2万枚を組み合わせて「大漁」を表現したモザイクアートも見上げた。
みすゞの墓がある遍照寺や、“仙崎八景”として詠んだ八坂神社、極楽寺、弁天島も巡った。その途次で嫁ぐ前の思い出旅行に北海道から来たという母娘や東日本大震災の津波で友を失ったとポツリと打ち明けた岩手の女性と、束の間、言葉を交わした。
仙崎では誰もの心にある“みすゞ”が呼び覚まされるのだろうか。旅する人も町の人の目や表情に優しさがあった。
(旅行作家)
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