なまこ壁が陽射しにまぶしい港町
伊豆半島西南部の松崎は青い海と潮風香る港町。街を歩けば、明治から昭和にかけて建てられた白壁・なまこ壁の土蔵や屋敷があちらこちらで目に入る。
なまこ壁は壁面に並べて貼った平瓦の継ぎ目に漆喰を鏝(こて)を使ってこんもり盛った外壁工法で、主に腰壁に用いられる。防火、保温、防湿とともに白と黒のコントラストは装飾性に富んでいる。だが建築や修復に人や技、費用を要するので減少の一途である。
ところが松崎には明治からのなまこ壁の建物が今も190余棟残る。それを支える左官の技や残そうという気風があるからだろう。
そんな街でひときわ目をひくのが、オペラ劇場を思わせる白亜の伊豆の長八美術館。全国の優れた左官技術を結集して33年前に建てられた「漆喰芸術の殿堂」と呼ばれる建物である。
江戸から明治にかけて漆喰鏝絵の名工で活躍した松崎生まれの入江長八の「春暁の図」や「ホーロクの静御前」などの作品を展示。建物自体が文化財や観光名所としても評価されている。
ここを起点に始めた町歩きの最初に寄ったのが、長八が幼少期に学んだ浄感寺(長八記念館)。住職夫婦から寵愛と薫陶を受けた長八が寺の再建の折に恩返しを込めて制作した本堂内陣の天井絵「雲龍」や「飛天」を見上げた。鏝一本とは思えない雄渾で繊細で優美な漆喰芸術に感動した。
案内版に従って総なまこ壁づくりの旧近藤家(薬問屋)横の石畳のなまこ壁通りを抜け、無料休憩所のなまこ壁の伊豆文邸(元呉服商)でひと休み。さらに那賀川にかかる漆喰鏝絵の欄干のときわ大橋を渡ってみごとななまこ壁の明治商家の中瀬邸に入った。
明治前期のなまこ壁も美しい和洋折衷の岩科学校の2階和室で白い鶴が群れ飛ぶ長八の「千羽鶴」も見た。
松崎はなまこ壁と長八の町。その風土が長八を生み、長八の心意気がなまこ壁を息づかせているのではないだろうか。
(旅行作家)
●松崎町観光協会TEL0558(42)0745