川と山と人の暮らしが清々しい村
関越自動車道沼田ICから車で10分余。川場村は霊峰・武尊山の南麓に広がるのどかな農山村。野花が咲き、カエルが鳴き、川に魚影が走り、トンボが飛ぶ。銘柄米「雪ほたか」、リンゴ、ブドウ、コンニャクの産地である。
「ふるさとの原風景」に出合えると聞いて訪ねたのは、早苗の水田に山影が映る季節。最初に立ち寄った「道の駅・川場田園プラザ」は平日なのに多くのマイカーや観光バス。池を囲んでビールレストランやパン工房、ミート工房、農産品直売所など10棟近くの木造建物には、どこも観光客の姿があった。
副村長の宮内実さんによると、この施設は人口減少の歯止めや交流人口の増加による農業の活性化を図る「農業+観光の地域づくり」の村の事業として平成4年に着手したとのこと。併せて進める「都市交流事業」も、当時「区民健康村づくり」を計画中の東京・世田谷区と村の構想が一致して、区立小学校全校5年生の移動教室や一般区民との交流が始まり今も続く。世田谷区民の“第二のふるさと”になっている。
人口は減少傾向で3500余。だがここ10年来、村の人気は右肩上がりで、田園プラザの入込客は年間180万人、売り上げは16億円を超え、雇用も増大。「関東・好きな道の駅」では10年連続1〜2位にランキング。各方面からの視察も多いという。
レストランで刺身とフライのギンヒカリ御膳を食べたあと、観光シンボルのD51のあるホテル田園プラザや廃校の小学校舎を活用した歴史民俗資料館、仏像、庭園、草花がみごとな吉祥寺、川遊びの清流公園などを車でざっと回った。
資料館では18歳で母を亡くし、病弱の兄と26歳で命を絶った川場生まれの「女啄木」と呼ばれる薄幸の歌人・江口きちのことを知った。
武尊山の伏流水が各所に湧き出し、森林が8割を占める水と緑の川場村。平成の大合併に参加せず自存の道を選んだ心意気と成果は熱いが、平均気温11度の村里の夏は涼しく、清々しい郷愁を誘われる。
(旅行作家)
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