【日本政府観光局インバウンド最新リポート 53】潜在性高いブラジル市場 JNTOニューヨーク事務所 伊勢尚史 所長


日系は地方誘客、非日系は裾野拡大

 ニューヨーク事務所は米国東部とあわせ、カリブ海・南米エリアに所在する約30の国・地域を管轄している。今回はその中でも米国に次ぐ第二のマーケットであるブラジルについて、現状をリポートしたい。

 訪日ブラジル人数は2018年で4万4千人となっており、13年の2万7千人から5年連続でプラス、総計63%の増加を遂げている。3月から5月、現地の冬休み期間である7月、そして10月が訪日旅行のピークシーズンとなっており、この点は米国市場と類似している。

 ブラジル市場を語る上で特徴的なのが、約200万人と一国としては世界最大を誇る日系人社会の存在である。本市場においては、自身のルーツの地を訪れることを主な動機として訪日する傾向があり、訪日経験者を対象に当事務所が実施した調査においても、訪問先が日本国内全体に広く分散していることから、地方誘客の強化にマッチした市場であるといえよう。

 一方で、当地の主要訪日旅行会社によると、同社が手配する訪日旅行者の7割が60代以上であり、裏を返せば3割しか50代以下がいない状況が生じているという。ブラジルへの移民開始から110年余りが経過し、日系6世が誕生しているが、ブラジル発の訪日旅行市場を今後さらに拡大するには、日本関心層やロングホール旅行関心層といった非日系マーケットをもターゲットとし、裾野の拡大を図ることが喫緊の課題となりつつある。

 このような状況を踏まえ、当事務所では、共同広告事業の実施や主催商談会の開催などを通じ、主要訪日旅行会社の非日系マーケットへの取り組みをサポートするとともに、在ブラジル日本国大使館や在サンパウロ日本国総領事館などの協力もいただきつつ、日本に一定の関心を有する富裕層向け旅行会社やOTAへのアプローチを強め、商品供給チャネルの多様化に取り組んでいるところである。

 当事務所のイベント参加者を対象とした調査において、日本文化体験への関心が訪日未経験者も含めて高く、また、最短でも片道25時間程度を要することなども背景として、7割程度の方が3週間を超える日本滞在を志向しているとの結果が得られた。文化体験などのコンテンツを核としながら、長期滞在ニーズを満たし得る多様な日本の魅力、そしてデスティネーションを発信していくことが不可欠であろう。

 昨年の実質経済成長率が1.1%にとどまるなど、ブラジルの経済情勢は依然復調途上にあるが、投資可能資産を100万米ドル以上有する富裕層が20万人近く所在する(キャップジェミニ社調べ)など、大きなポテンシャルを持つ市場でもある。このようなポテンシャルが実需に結実するよう、市場関係者との連携を一層深め、事業の精度を高めていきたいと考えている。

 
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