【日本政府観光局インバウンド最新リポート 66】イタリアに学ぶ新しい観光 JNTOローマ事務所 善木麻依子 次長


座席の利用を制限した長距離電車の車内

自然志向、安心安全を重視

 イタリアは毎年約6千万人以上の旅行者が訪れる観光大国である。そして、今年の早い段階からコロナの感染が急激に拡大した国でもある。1月末から影響が広がり、外出制限を経て、国境が再開した6月から観光客の戻りは見えつつあるものの、今年のUNWTO(国連世界観光機関)統計によると、海外からの旅行者数は前年比53%減の見込みとされ、観光業の傷跡は深い。毎年3千万人以上の観光客が訪れ、昨今オーバーツーリズムが課題となっていたベネチアも、旅行関係者によると、観光客は例年の約15~30%とのことである。

 世界最大の観光受け入れ国の一つであるイタリアだが、国民自身もバカンスを重んじ、毎年8月半ばは2~3週間休暇を取るのが一般的だが、今夏も例外ではない。伊国家統計局によると、第2四半期GDP成長率は、前年同期比17.7%減と過去最低となったものの、8月の消費者信頼感指数は、7月の100.0から100.8へと回復傾向が見られ、当地調査会社Ixeによると、人口の約3分の1に当たる2110万人(前年比11%減)のイタリア人が今夏旅行をしたとの結果が出た。ここで、旅好きのイタリア人のマインドや観光業の対応について探りたい。

 ミラノの調査会社Ipsosが6月末に千人を対象に行った夏の旅行の意識調査によると、夏に旅行を予定していた人は、前年の72%から61%に減っているものの、4月上旬の41%、5月末の51%に比べ、外出制限解除後に回復の兆しが見える。回答者のうち、約83%は国内旅行に、行き先は海が59%(前年56%)、山が15%(11%)、自然がある郊外が8%(5%)と「自然」を求める傾向が見られ、他方、文化に触れる旅行は17%(26%)、クルーズは1%(2%)と下方傾向が見えた。旅行期間は、3泊程度の小旅行が49%(前年52%)、4~13日が30%(43%)、2週間以上と回答した者は10%(17%)であった。

 コロナ禍にありながらもバカンスは欠かさないイタリア人にとって、旅中の安心安全の確保は重要であり、どのようなメッセージを受け取りたいか、との問いに「安心安全」が68%、「日常への回帰」が62%との回答があった。求める広告イメージについては、「リラックス・穏やかさ」を想起させるものが32%、「明るい・遊び心のある・自由な」が21%となった。

 観光業において実施されている対策として、長距離電車は乗客を半数に制限し、左右前後に人が座れないようにするほか、駅構内での検温実施、車内ではマスクや消毒液を配り、感染防止を呼び掛けている。レストランなどはQRコードでスキャンするメニューやコンタクトレスによる決済も進んでおり、感染防止に配慮しながらも、従来の経済活動を戻す工夫が多くなされている点は、訪日PRに取り組むにあたり学ぶ点が多い。

座席の利用を制限した長距離電車の車内

 

 
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