【日本政府観光局インバウンド最新リポート 96】高付加価値旅行 ”ストーリー”が誘致の鍵 JNTOシドニー事務所 田中陽子 所長


JNTOによるファムトリップでの真珠の取り出し体験

 2022年10月の渡航解禁から、豪州のみならず世界中からインバウンド需要は急速に回復の局面を見せている。JNTOもパンデミック後の誘致の柱として「アドベンチャートラベル」「サステナブル・ツーリズム」「高付加価値旅行」を推進しているが、ここ豪州でも政府観光局にあたるツーリズム・オーストラリア(TA)が高付加価値旅行者をターゲットにした取り組みに力を入れている。TAの「高付加価値旅行者」の定義は(1)定期的に長距離旅行を楽しみ、(2)豪州を訪問する意向があり、(3)旅行先を選ぶ際に、「飲食、海洋、自然や野生動物体験」が主な目的―としており、これらの旅行者は通常の旅行よりも滞在時間が長く、支出も高いとされている。

 19年にTAが実施した調査によると、高付加価値旅行者数は世界的に8千万人おり、平均的な滞在日数は13泊、通常の旅行者と比較して2~3倍の支出をするという結果が報告されている。さらに90%以上が本格的なその土地ならではの経験を求め、偏見なく、知識を広げるための旅にすることを望んでいるという結果も出ている。

 JNTOでは、高付加価値旅行者の定義を「訪日旅行1回あたりの総消費額が1人100万円以上の旅行者」と定義している。これらの旅行者は食や観光などを楽しむだけではなく、「旅行する意味」を強く求める傾向があるといわれている。例えば、単に観光して文化資源を見るだけではなく、その地域の歴史や文化の成り立ち、自然とのかかわり、その地域の人々を知ることを求め一体としたストーリーを知ることでより満足度を高めている。

 当所でも高付加価値旅行を取り扱う旅行会社7社を招請したファムトリップを昨年秋に実施、その際に訪れた三重県・伊勢地域のコンテンツについて、参加者から「一つ一つの訪問箇所というよりは、訪問した全ての行程が物語としてつながっており、地域の伝統や食文化などがどのように育まれたかを学ぶことができ、非常に満足度が高い訪問になった」とのコメントが寄せられた。(訪問箇所=伊勢神宮、かつお節削り体験、真珠アクセサリー作成体験、海女小屋での食事体験など)

 このように、高付加価値旅行層を呼び込むコンテンツを紹介する際には、地域全体で成り立ち、そのコンテンツが生まれた背景、複数のコンテンツを結び付けてストーリーを紡ぎながら、かつ個人でも周遊できるようなモデルルートを提示することで、よりその地域に誘致できる可能性がひろがる。

 豪州と異なる歴史・文化が体験でき、かつ旅行するにも安全、人々の温かさを体験できる訪日旅行は他国と比較しても、優位な位置につけていることは間違いない。コロナ禍からの回復を見せている23年はバケットリスト(人生に一度は体験したいこと)を実現する年、といわれている。リピーター層に加え、こうした初訪日客、高付加価値旅行層も誘致できる絶好の年になることを期待している。 


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