【日本政府観光局インバウンド最新リポート28】先進市場シンガポール JNTOシンガポール事務所 小林大祐 上席次長


ハイブリッド型プロモーションへ

 ASEANの先進国であるシンガポールは、訪日動向においても周辺諸国と比較して成熟度が高く、高いリピーター率とFIT比率、そして進行するオンライン化の3大特徴を有した先進市場であると言われる。このように急速に変化が進む当地において、今後どのようなプロモーション活動がより効果的であるのかという声をインバウンド関係者から耳にすることが多くなった。

 訪日プロモーションのアプローチ手法としては、旅行博やセミナーなどの対面型の機会を活用したいわゆるオフライン活動と、インターネットやSNSといった媒体を活用したオンライン活動の二つに大分される。オフライン活動は情報の広がりは限定的ながら、体験や対面セールスを通した深度や確実性の高い魅力発信が可能である一方、オンライン活動はデータの蓄積や拡散性に優れた情報発信が可能となり、それぞれが異なる強みを持っている。筆者は、このオフとオン双方の強みをそれぞれ生かす形で融合させた「ハイブリッド型プロモーション」が、これからのプロモーション活動の一つのモデルになると考える。

 ここで、JNTOシンガポール事務所が、上述の考え方を根幹に昨年度に実施したハイブリッド型プロモーションの実例である、日本食の魅力を活用したプロモーションについて紹介する。具体的には、まず現地大手レストランチェーンと連携して日本食材を活用したメニューを開発し、国内全土に展開する店舗での販売を通して食の切り口から日本の魅力発信を図った。店舗ネットワークを効果的に活用した、パーチェスファネルのフェーズ1にあたる「認知」のステージである。次いで、フェーズ1でアプローチした潜在需要をキャンペーンウェブサイトに誘導、オンラインの拡散性を生かして当サイト内で各地域の食や観光情報の発信を行い、具体的な訪問意欲を向上、フェーズ2である「興味・関心」へと発展させる。

 さらに、フェーズ2で興味を刺激した顕在需要を、連携するOTA(オンライン・トラベル・エージェント)のサイト内に設置した日本特設ページへと誘引、そこで販売される訪日商品の購買を促し、フェーズ3である「検討・購買」へと結びつける。

 オフライン(現地連携企業の店舗を活用した情報発信)×オンライン(OTAと連携した訪日商品の販売促進)の両軸を一つの事業の中で効果的に融合、さらにパーチェスファネルの入り口から出口までを一気通貫して網羅することで、連携OTAの販売実績が前年同期比で23%増となるなど、より効果的な事業成果を出すことができた。

 急速に進む消費者行動のオンライン化は避けられない時代の波であるが、オフラインとオンライン双方の特長を生かしながら、いかにして効果の最大化を図るかが重要なポイントであると考える。JNTOシンガポール事務所では、急速に変化する市場特性を捉えながら、ASEAN地域をターゲットとしたプロモーションのモデルケースとなるような新しい活動にも、積極的に挑戦してまいりたい。

 
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