うま味成分のグルタミン酸が、昆布だしと同じくらい母乳にたくさん含まれていることは知られていますが、胎児を包んでいる羊水にも、母乳ほどでなくても少量ながらグルタミン酸が含まれているそうです。「ヒトとうま味の初めての出合い」、なんだか神秘的な感じがしませんか。
甘味、塩味は本能としても受け入れやすい味といわれています。特に教えなくても本能として「おいしい」と感じる味です。でも酸味、苦味は違います。酸味は腐敗からも感じる味であり、苦味は毒にも通じる味で自己防衛の手段にもなり得る味覚です。酸っぱい味、苦い味は学習して初めて受け入れることができる味といわれているゆえんです。
以前、「キレやすい子供たち」と問題になったことがありました。その多くの子供たちの食生活を調べたところ、ファストフードの食べ過ぎや、炭酸飲料の飲み過ぎによるカルシウムと亜鉛の不足が指摘されました。亜鉛は味覚細胞の形成に関わっていて、そのため不足すると味覚障害を引き起こします。我田引水のようですが、日本茶には亜鉛が含まれ、加えて、虫歯予防の一助ともなるカテキンの他、フッ素も含まれています。味覚を鍛える意味でも、日本茶のうま味と爽やかな渋味、苦味を幼い頃から味わってほしいと思います。
青森県の岩木山麓にある「森のイスキア」と称する家で、悩める人たちを癒やし続けた佐藤初女さんをご存じの方も多いと思います。「食べることは、命を移しかえることです」と、素材を生かした彼女の手料理が、体だけでなく心を病んだ人々の立ち直りを助けたこと、彼女の作るおむすびを食べ涙した人々のことなど、静かな感動と共に語り継がれています。佐藤さんは「食材を命と考えたとき、それを生かすために心を込めて慈しむように調理すればおいしくなる。おいしいと感じて食べたとき、それが自分の命となる」との言葉も遺していらっしゃいます。