『全国2954峠を歩く』。全国の2954もの峠をわずか10年で巡った峠研究家の中川健一氏による、「峠を楽しむ」ガイドブックだ。
普段は何気なく車で通りすぎてしまう峠。でも、そこで一度立ち止まって、その峠のさらに上の方を確かめてみてほしい。そこには、太古の時代から人々が通っていた旧道の峠がたいてい残っていたりする。
例えば、名作『伊豆の踊子』で有名な静岡県・天城峠。現在通常使われている新天城トンネルのほかに、明治時代に完成した天城山隧道、さらにその上には、踊り子たちが歩いた昔からの天城峠が残されている。
このように、峠道は、時代によって新しいものが作られてきた。旧道のほか、明治時代から平成時代に掘られた隧道やトンネルを含めると、第2世代、第3世代、また、それ以上の世代の峠道が今でも同時に存在する。
つまり、峠は、タイムマシーンに乗らなくても、その時代のことが入場料無料で楽しめる場所、タイムカプセルなのだ。
峠で楽しむ歴史散歩
峠は物資を運ぶ道であったほか、軍事、信仰の道として使われていた。峠にある地蔵尊の裏にある年代表記を見ると江戸時代もしくはそれ以前のものもあり、いきなりその時代にタイムスリップしたような気分にさせられる。
軍事の峠としては、たとえば、山梨県の宇津ノ谷峠。豊臣秀吉が小田原征伐の際に、侵攻しやすいように整備した峠だ。この宇津ノ谷峠は、奈良時代、秀吉の戦国時代、明治、大正、昭和、平成と6つの時代の峠が残されているのが、峠ファンには垂涎の峠だ。
廃道化して、峠は消滅してしまう!
峠は生き物である。峠は時の流れとともに消滅してしまうものだ。人が通ることで整備されてきた峠だが、新しい道やトンネルができ、人の往来がなくなってしまうことで、自然に還ってしまう峠もある。峠の道は使わなければ苔むしていき、その後、アスファルトの亀裂ができる。その亀裂に種子が根付き、草で覆われ、人の往来ができなくなってしまう。北海道の林道などでは、こういった峠に遭遇することができる。だからこそ、今、このタイミングで峠へ行かないと出会うことができなくなってしまうのである。
幻想的な峠と、背筋のゾッとする峠
最後にふたつの峠を紹介しよう。2954峠を巡った著者は、今まで「森の妖精」や「ましら」など、山怪と呼ばれるものに出会ったことがないというが、気味が悪かったという峠があるという。それが、和歌山県の香ノ塔峠だ。写真を撮ってすぐに立ち去りたいと思った峠だという。
一方、その美しさに心が洗われたというのが、その香ノ塔峠のひと山越えたところにあるコカシ峠だという。鬱蒼とした森林の中にある峠でその幻想的な佇まいに感動したという。
そんな峠の面白さをガイドした『全国2954峠を歩く』。
今までにない、新しい旅「峠を楽しむ旅」へ出かけませんか。
「全国2954峠を歩く」
中川健一著
ページ数/168ページ
定価/本体1,600円+税
978-4-86257-391-9
発売日/8月7日