山形県長井市の観光戦略
観光でまちににぎわいを 住民の理解、参画に期待
2018年2月に川と水の生活文化や舟運で栄えた町並みなどが評価され、最上川上流域における町場景観が「国の重要文化的景観」に選定され注目度が高まる山形県の長井市。2018年に4期目の当選を果たした内谷重治市長に市の観光の現状と今後を聞いた。
――長井市について紹介を(観光、その他産業も含めて)。
「江戸時代に上方との最上川舟運で栄えた『山の港町』として、米沢藩内有数の商業の町だ」
「産業は、養蚕、生糸産業が盛んな地域であり、大正3(1914)年に鉄道が長井まで開通すると、大正9(1920)年に郡是(グンゼ)製糸、昭和17(1942)年には東京芝浦電気を誘致、以降、”企業城下町”として電気機器関連産業が発展してきた歴史がある」
「代表的な観光地として、舟運文化の町並みと3.3ヘクタールの中に500種、100万本のあやめ公園、樹齢750余年の古木をはじめ3千株余の白つつじ公園など歴史ある花々が水と緑に調和する美しい景観があるほか、国指定天然記念物のサクラ(久保ザクラ・大明神ザクラ)が有名だ」
「このほか問い合わせが急増中の長井ダム百秋湖のアウトドア体験は内容も充実。三淵ボートツアー、水陸両用バスなどが好評をいただいている」
「これまで当市の観光は『市民が楽しむもの』との思いから一過性で通過型の観光(客)は望まない傾向が強かったため経済効果を期待するまでには至らなかった」
――市にとって観光(業)はどのような位置付けにあるか。
「『資源を活かした活力を生み出すまちづくり』の中で『交流人口を増加させ、地域経済に貢献する観光』を目指すため第5次総合計画に沿って推進している」
「人口減少、若者の流出で市の経済は疲弊が進んでいる。そのためにも観光事業の振興を通して、まちのにぎわいをつくるソフト事業が重要だと考えている。交流人口の増加による直接的な経済効果のほか、産業の多様化、起業の機会の創出を図ることが、定住人口の増につながる重要な政策であると捉えている」
――観光振興策の具体的取り組みは。
「中心市街地のハード事業による活性化と市民による観光地域づくりというソフト事業の両輪がかみ合うことで持続可能な町づくりを進めていく」
「2012年度に観光振興計画を策定し、観光地域づくりプラットフォームの組織化を着実に進めてきた。2016年度にやまがた長井観光局を立ち上げ、2019年2月に『一般社団法人やまがたアルカディア観光局』として2市2町による地域連携DMOを設立(現在2市3町)。この取り組みを進めることで、地域住民の意識改革、他市町の観光資源も生かした相乗的な経済効果を生み出す力を培っている」
「DMOは、民間で活躍している若手をメンバーに毎月戦略会議を開催。常に地域ビジネスにつながる提案を参考に実践実証を重ね、お客さまアンケートを通して商品開発を行っている。その結果、補助率の高い国の地方創生推進交付金を活用し、商品づくりと人材づくりに結び付けている」
――取り組みを進めるに当たっての課題は。
「地域住民が観光地の地域づくりとはどういうことかという認識がまだ不足していることは確か。実践に参加していただく方を増やし、より活気ある地域にしていきたい」
「地域資源が観光資源になるには、地域の方の理解と努力が必要だ。ほかにも観光資源になるものがあるので、お客さまに耐え得るレベルへのブラッシュアップが必要だ」
「特に重要文化的景観に選定いただいた『最上川上流域における長井の町場景観』は、誘客に耐え得るハード事業も必要となっている。併せて町並みを維持する仕掛けも重要だ。これらが整えば高いポテンシャルとなり、今後の観光振興と定住へつながるものと期待している」
「製造業の撤退などのほか、コロナ感染症の影響で需要バランスが変わってきている。現在進行中の本町街路事業が2023年度で完成することから新たな町並みのにぎわいについて、店舗の進出を促進する方策が課題だ」
――市内外の観光関係者に一言。
「市民には、ぜひ観光地づくりに何らかの形で参画していただき、地域で受け入れ、みんなで経済活動を行う風土を築いてもらいたい。観光客や旅行会社の皆さんには、当地域をじっくり見て感じて味わって参加してもらいたい」
【聞き手・平塚眞喜雄】
内谷市長