新会長の方針
GoToは復活のエンジン リピートにつなげる動きを
――JATAの新会長に6月22日就任した。会長としての抱負は。
「最近は旅行業の裾野が広くなり、いろいろな意味でJATAのあるべき姿を少し見失うこともあった。もう一度、原点に返って会員のためにということを中心に置きたい。また、私はこれまで人に恵まれてきた。鉄道業から旅行業に来た時にも旅行というものがほとんど分からない状態で、いろいろな人の力を借りながら今までやってきた。会長を引き受けたのは、恩返しの意味もある」
――旅行業界の現状をどう捉えている。
「緊急事態宣言は旅行業からすれば事業の中心である旅行や移動をしないでほしいという要請であり、4~6月の旅行の取扱人員、取扱収入は前年比95%減にまで落ち込んだ。6月19日に移動制限が解除され、少しずつ人の移動が出てきたのが明るい兆しだが、まだ旅行の段階までには進んでいない。旅行業は依然、今まで経験したことのない非常に厳しい状況だ」
――2020年度事業で重点を置くことは。
「コロナ禍からの復興にどう取り組むかが、一番大きな活動になる。北海道の『どうみん割』など各地域が少しずつ旅行への助成金を導入し始め、域内の移動、旅行が少しずつ出てきている。そして、政府による国内旅行の需要喚起策として『Go Toトラベルキャンペーン』が7月22日から始まった。これは旅行業が復活していくための大きなエンジンになる。JATAとしてしっかりと捉え、次につなげていきたい」
「今後、間違いなくコロナと共存していかなければならないわけだから、その最初の施策として旅行業のガイドラインを作成した。教育旅行に関しては、手引きという形で対応策を作った。万一、このキャンペーンによってコロナの感染が広がると、今後、海外旅行や訪日旅行の需要回復にも大きな影響を及ぼしてくるので、安全、安心な旅行を提供することを第一に考えている」
――Go Toトラベルキャンペーンの運営事務局には、JATAを代表として7団体・企業で構成される「ツーリズム産業共同提案体」が決まった。
「キャンペーンには非常に多くの予算がかけられている。迅速、安全、安心、公平、公正をしっかりと意識し、一極集中ではなく、全国の地域にあまねくしっかりと行き渡る取り組みをやっていかなければならない」
「一過性ではなく、旅行にもう1回行ってみようという方向にいかに持っていけるかが重要だ。安売りではダメだ。キャンペーン終了後に価格が元に戻ったら行かなくなってしまう。今までも『ふっこう割』の翌年は数字が落ちてしまうという例がままある」
「お客さまにワンランク上の旅をしてもらう。あるいは、1泊で考えていたものを2泊に伸ばしてもらう。キャンペーンを通じて、そういった旅の素晴らしさを体験して知ってもらい、旅に対するお客さまの考え方も少し変えていきたい」
――新会長あいさつでは「地域との連携をより強くする」と発言された。
「旅行の裾野が広がっている。例えば、静岡産のメロンは主に首都圏で消費されていると思われがちだが、実は地域の方が消費量が多い。旅館・ホテルなどいろいろなところで消費されている。今回の移動自粛でメロン農家の経営が非常に苦しくなった。ツーリズム産業というのは、旅行業や旅館・ホテル、観光施設、運輸機関などが軸になるけれども、そこから派生して地域の一次産業、二次産業に対する影響力も非常に大きい。そこで雇用も生まれてくる。旅行業は、地域にもしっかりと目を向け、地域活性化の原動力になるというのも大きな役割だ」
――地域との連携に関する具体的な取り組みは。
「JATAの下部組織に支部があるが、今、支部と本部との感覚が少し離れている。そこに一体感を持たせたい。支部においては、地域の観光素材にこだわり、その地域の旅館・ホテルなどと一緒に旅行商品を作っていくということをやる。支部でのそういった動きが地域の活性化つながってくる」
――地域の観光事業者に伝えたいことは。
「旅行というものは、旅行会社だけでは成り立たず、周りにいろいろな方がいて初めて完結する。だからこそ、これから国内旅行振興を進めていくときには、『協調』と『共創』を頭に置いて、地域の旅館・ホテル、運輸機関、観光施設などの方々と一つのことを創り上げることが非常に重要だ。逆に地域の方々も共にやっていくんだという思いをぜひ持っていただきたい。旅行とは人を動かすことではなく、心を動かすことだ。思いのないものに人の心は動かない。これから旅行の形態も変わるし、お客さまのニーズも変わってくる。そういった中で思いをどう伝えるかにこだわり、旅の力で人や地域を元気にしたい」
【聞き手・板津昌義】