【特別寄稿】産業観光の活性化 全国産業観光推進協議会 会長 須田 寛


須田寛氏

 今年の「全国産業観光フォーラム」は、「ツーリズムEXPOジャパン」行事の一つとして、10月25日、大阪で開催された。荒天にも関わらず、百数十人の出席を得て、活気あるフォーラムとなった。

 主催者である日本観光振興協会(全国産業観光推進協議会)から19年度の「産業観光」について重点施策の説明があり、「教育との連携」という新しい柱をたてて推進することとなった。次代を担う青少年に観光の意義と役割を知ってもらうためには、教育課程の中に産業観光を組み込んで、理解させることが重要だからだ。国の新教育指導要領に「観光教育」の推進が示唆されたことも動機の一つとなった。

 教育との連携には、地域で親しみやすい、また、どこにでもあるものづくりからアプローチすることが望ましい。そこで、産業観光を中心として、教育との連携を図ることが最も効果的と考えた。

 具体的施策としては、(1)観光についての出張授業(課外授業)の実施の呼び掛けと参加(講師派遣など)(2)そのための副教材(副読本等)整備への協力(3)修学旅行へ工場見学や農漁業見学体験を組み込むことを要請する―など。

 日本修学旅行協会、日本商工会議所との連携のもとに、日観振の各支部でもこれらを積極的に進めることを提案した。そして、日観振を通じて、全国的な教育との連携による新しい観光ネットワークを構築したい。

 基調講演は、東大大学院経済学研究科の藤本隆宏教授が「『良い設計の良い流れ』を作る地域の産業と観光」と題して行われた。

 藤本教授は、製造業の基本行動を分析すると、「よき設計を転写して製品に反映させ、それを顧客に渡す」という流れを円滑に進行させることに重点がある。さらに、その理念としては、「顧客」「企業」「地域」のいわば、“三方よし”の実現を目指すことにある―と述べた。

 この考え方は有形物の生産のほか、無形のサービスにも共有されるべきとされた。しかも、情報技術の発展もあって、製造業とサービス業の距離が縮まってきていると思う。また、その両者を結び付ける役割を果たしているのは、観光(就中(なかんずく)、産業観光)ではないかと説かれた。このため、今後の観光は製造業と同じように、点と面の両者に留意しつつ、進めることが求められる。成功すれば、将来の産業社会は、自動車と観光の時代になり得ると、観光への強い期待を示された。

 例年、「産業観光」推進に顕著な実績を残した団体を表彰しているが、今年は受賞者から受賞後に、会場にてプレゼンテーション(内容説明)を求めた。そして、これに審査員にも同席していただき、質疑応答、意見交換が行われるよう、席を用意した。すなわち、パネルディスカッションに近い構成を試みた。

 簡単に各賞の主な取り組みを紹介する。

 金賞の広田湾遊漁船組合(広田湾漁業協同組合)は、岩手・広田湾の漁業関係者のアイデアで、酒類を密封して、筏(いかだ)を利用して、海中に吊るして熟成させている。密封、筏での作業の一部は体験が可能で、醸造漁業観光といえよう。

 経済産業大臣賞の株式会社能作(高岡市)は、高岡の特産物、銅器の製造過程の一部体験、見学等を受け入れているが、富山県内の産業観光のコア施設となるべく、広く他の産業観光等との連携も図り、観光客の周遊性を増す努力を続けている。

 観光庁長官賞の志摩市は、名物の「真珠」の貝がらからの取り出し作業、また真珠をアクセサリーに加工する作業行程の体験見学というユニークな産業観光メニューを、ビジネスモデルとして成功させている。

 その後、審査員から、受賞件名全体についてのコメント、総評が行われた。「優れた件名には、発想の転換が動機になっていることが共通点となっていた。また、産業観光を通して、さまざまな社会の動きやその側面を幅広くみつめることができ、そこから、新しい商機を見つけ、ビジネスモデルを成功させたことも印象に残った」という発言があった。これらの発言が今回のフォーラムの成果を示す、まさに、まとめの言葉になったと言えよう。 

(JR東海相談役)


須田寛氏

 
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