【特集】韓国・咸安 三大火祭りで地方誘客 無形遺産「落火ノリ」が観光の要に


 

無数の火の粉が夜に舞う

 韓国第2の都市、釜山から車で約2時間の場所に位置する咸安(ハマン)。毎年釈迦(しゃか)の生誕日(旧暦4月8日)には、韓国三大火祭りの一つ「咸安落火(ラッカ)ノリ」が開かれ、多くの観光客が訪れる。10月31日、日本人観光客を対象としたジャパンデーが初めて開かれた。その様子をもとに咸安落火ノリの特徴や魅力、伝統を継承する保存会の取り組みを紹介する。

誘客の起爆剤に

 韓国の三大火祭りの一つ「咸安落火ノリ(遊び)」は、咸安郡民の安寧や繁栄、厄払い、健康などを願って毎年釈迦の生誕日(旧暦4月8日)に行われる民俗行事。炭と韓紙(韓国伝統の手すき和紙)を縄状に編んで作った「落火棒」をひもにぶら下げて火をつけ、火の粉のうつろいを楽しむもので、舞い落ちる火の粉が花のように美しいことから、「落花ノリ」とも呼ばれている。

 落火ノリは他地域でも盛んに行われ、祝賀公演や祭礼行事など活用の幅も広い。中でも最も規模が大きいのが咸安の落火ノリで、慶尚南道の無形文化遺産にも指定されている。人口約5万人の都市・咸安にとっては、観光の要ともいえる存在だ。

 これまでは年に一度の開催だったが、韓国ドラマ「生まれ変わってもよろしく」「この恋は不可抗力」などのロケ地として注目を浴び、聖地巡礼で訪れる見物客が急増。今年度からは、予約制の導入や旅行商品を開発し、観光資源としての活用を強化するほか、運営面における安全性確保にも努める。

 10月31日には、日本人旅行者を対象とした「咸安落火ノリジャパンデー」が開かれ、ツアー客約450人が参加。約千本(通常は約3千本)の落火棒に火がつけられ、夜空の下、韓国の伝統楽器の演奏を聞きながら、無数に舞う火の粉の様子を楽しんだ。

 ジャパンデーを主催した韓国観光公社のイ・ハクチュ国際観光本部長は、「来年は日韓国交正常化60周年の節目の年。日韓の交流をより活性化するためのさまざまなコンテンツ開発やインフラ整備に力を入れている」とコメント。咸安落火ノリをはじめとする地方の観光コンテンツを活用した誘客については、「コンテンツ自体は十分な魅力があるが、ソウルと比較するとまだまだホテルが少ないのが現状。今後は宿泊施設の整備にも力を入れていきたい」と意気込みを語った。

保存会の存在

 朝鮮中期から行われていたといわれる咸安落火ノリは、1960年に無尽亭で再現され、現在に至る。これまで存続されてきた背景を語るには、地元住民で構成される「咸安落火ノリ保存会」の存在が欠かせない。

 保存会は、祭りの準備から運営まで全てを担い、落火棒に必要不可欠な炭も保存会の手によって作られる。咸安の山でとれたクヌギなど良質なオークの木を窯の中でじっくりと火を入れ、約3カ月かけて完成させる。湿度に弱いため、管理が難しい点もあるが、自然由来の素材の良さが落火ノリの美しさを引き立たせるという。

 保存会のイ・スチャン事務局長は、「炭の製造方法は特許取得済み。火薬を使わないので環境にも優しく、会場の池にコイが泳いでいるのを見ればこのことがよく分かるはずだ」と説明する。

会場も文化遺産

 舞い落ちる火の粉が池の水面に反射することで美しさが増す咸安落火ノリの開催地、「無尽亭」(ムジンジョン)も慶尚南道の有形文化遺産に指定されている。

 無尽亭は朝鮮時代初期に建てられた亭子(東屋)の一つで、前面3間、側面2間、屋根は側面が8の字形に似た入母屋(いりもや)造りが特徴。現在の建物は1929年に再築されたものだが、装飾や彫刻がない素朴なたたずまいが朝鮮時代につくられた亭子の形式をよく表している。

 「限りなく続く豊かさ」という意味を込めて名付けられた「無尽亭」の名の通り、元々は、当時の人々が心の安らぎを求めて訪れる場として見晴らしのよい丘の上に建てられたもので、周辺の景色を一望できる設計になっている。池の周辺には大きな木々が茂り、散歩にも適したヒーリング観光地としても知られている。

咸安の世界文化遺産 末伊山古墳群

咸安を訪れた際は、世界文化遺産「伽耶古墳群」の一つで、無尽亭のほど近くにある「末伊山(マリサン)古墳群」にも足を運びたい。

 末伊山古墳群は5~6世紀に豊かな農耕社会を築いた伽耶小国「阿羅伽耶」(アラカヤ)の王と貴族たちの墓が造成された古墳群。約100基の大型古墳が高い場所に列をなしてたたずみ、その下に約1千基の中小型の古墳が分布している。稜線に沿ってはるか遠くまでつながる古墳群の圧倒的な景観に驚くだろう。

 古墳群の一番高い位置からは、咸安落火ノリの様子をゆっくり眺めることができる。

大邱・釜山エリア 新たな観光名所が続々

咸安の近隣都市、大邱や釜山でも観光客を呼び込もうと、新たな観光コンテンツの開発に力を入れている。

 大邱の中心街に位置する「スターバックスコーヒー 大邱鐘路古宅店」は、2022年10月にオープン。一般的なスターバックスとは異なり、1919年に建てられた伝統家屋「韓屋(ハノク)」をリノベーションした店舗で、美しい建築様式を保全しつつも、過去と現在が調和する特別な空間に仕上げた。木材、土、瓦、石など、韓屋特有の自然素材を用いた建築技術が随所にみられる。

 店内では、アメリカーノなど定番メニューのほか、低温抽出したコーヒーに、マッコリをアレンジしたクリームとクランチを載せた「ライスクリームコールドブリュー」等、ユニークなドリンクも提供する。

 釜山港近くの島、影島(ヨンド)では、韓国のデジタルデザイン会社・ディストリクト社が手掛ける没入型メディアアート展示館「ARTE MUSEUM BUSAN」(アルテミュージアム釜山)が今年7月にオープンした。同ミュージアムは済州、麗水のほか、香港、ドバイなど海外にも広く展開しており、釜山は8番目。

 館内には19のメディアアート作品が展示され、うち16作品「フラワーローズ」「ウェーブ」「ムーン」等は釜山の地域性に合わせて新しく制作されたもの。「CIRCLE」(循環)をテーマに光と音、香りで釜山の自然の壮大さや美しさが再現され、ここだけの没入体験が楽しめる。

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