【特集 旅館の生産性向上策】無駄をなくし“当たり前”を創造 土湯温泉・山水荘


渡邉利生常務

生産性向上と高付加価値化を両立 働きがいを感じる労働環境を整備

 水織音の宿 山水荘(福島県土湯温泉)は、食事提供や労務管理に係る改革を実施し、顧客サービスの向上と高付加価値化、従業員のワークライフバランス実現に注力している。改革を主導する渡邉利生常務は「余計な作業をなくすこと」を意識し、旅館業務での”新たな当たり前”を作りだそうとしている。

 渡邉常務は「私が当館に戻ってきた2012年当時、東日本大震災の影響で館内のオペレーションは崩れ、サービスの質も低下していた。従業員も1日12時間超もの労働が常態化し、こういう労働環境が当たり前になっている現状を変えたい」と感じ、高品質なおもてなしと労働環境整備の両立を目指す決意をした。

 館内設備では食事提供に関連する部分を大きく改良した。かつては宴会場からメイン厨房の食洗器へと食器を運んでいた。客室数71室を有する同館にとって繁忙期の下膳作業は常に時間に追われ、「全て終了するのが午前2、3時になることもあった」(渡邉常務)という。そこでサービス、生産性向上の専門家の意見を参考に、宴会場の横に小さな食洗器を設置し、宴会場の使用済みの食器をすぐに洗える環境を整えた。「使用済み食器の大規模な移動作業がなくなり、手間と負担が大きく省けた」と渡邉常務が振り返る通り、食器洗浄完了の時刻が午前0時を超えることはほぼなくなった。

 オープンキッチンを付帯するレストランの導入も労働時間短縮に大きく寄与した。料理を作るエリア、宿泊者が食事をするエリアを同空間内に置くことで調理、配膳、下膳の手間を大きく省略した。料理も1、2品出しが可能となった。「以前は調理人が早朝に出勤し、全ての料理を作り置きする必要があったが、現在は午後に出勤し、必要最低限の調理をすれば良い体制になった」と渡邉常務。料理を作りたてで提供できるようになり、高品質な食事サービス提供へとつながった。

 従業員の労務管理体制構築にも着手。「流動的にシフトを組めるように」との狙いのもと、接客に係る部署を再編。労務管理ソフトを導入し、経営陣が15分単位で各従業員の業務内容を話し合って決定し、長時間労働、深夜労働を避ける体制を構築していった。渡邉常務は「『繁忙期の特定の日は頑張ってほしい。その頑張った分、別の日は早く退社し、余暇を楽しんでほしい』との思いで、メリハリを付けた働き方をしてもらうようにした」と経緯を語る。1日8時間労働を基本として基本給を引き上げ、年間休日は87日から105日へと増加。役職、子どもなど各手当ても拡充し、働きやすい環境を整備した。土産コーナーやドリンクオーダーにPOSシステムを導入し、オープンキッチンの厨房ではアレルギーなど顧客ごとの料理提供に関する留意事項を電子パネルで表示するなど、デジタル化、ペーパーレス化も推進する。

 「宿泊施設は地域にとって誘客の要の一つ。『宿泊業は楽しく働ける』という意識が当たり前になってくれれば」と渡邉常務は話す。館内の生産性向上を優秀な人材の確保、高品質なサービス提供による客単価の向上や高価格帯層のインバウンドの取り込みなどに生かし、地元の活性化と宿泊業界全体の地位向上まで見据えている。

オープンキッチンを付帯するレストラン。厨房も同空間内にあり、調理、配膳、提供、下膳、食器洗浄の作業効率全てが向上した

宴会場横の食洗機(右奥)。食器の回収、洗浄をスムーズに行えるようになった

 
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