【特集 旅館の生産性向上策】DX推進で“高質化”へ 磐梯熱海温泉・ホテル華の湯


菅野豊臣社長(左)と菅野豊晴専務

備品改善で食材廃棄削減 QR導入し消費単価向上

 800年余の歴史を持ち、「美人の湯」としても知られる磐梯熱海温泉(福島県郡山市)。その中で「ホテル華の湯」(162部屋)は、磐梯熱海温泉に4館ある栄楽館グループの一つ。館内では、24種類の湯舎めぐりと6種類の展望ひのき癒やしの湯の“30種類の湯舎めぐり”が楽しめる。

 昨年10月に新社長に就任した菅野豊臣社長は「栄楽館グループには、大規模旅館であるホテル華の湯のほか、昭和5年に創業し、2本の源泉が楽しめる『萩姫の湯 栄楽館』、熱々のかまど料理や三つの貸し切り風呂が自慢の『湯のやど 楽山』、食事や飲み物が含まれるオールインクルーシブを採用する『五の香を感じる宿 浅香荘』がある。4館それぞれが特色を持っている」と話す。

 ホテル華の湯では、生産性向上策として、コロナ前にはMICEにも対応できる大型コンベンションを整備。駐車場をコンベンションに変えるなど、現在は二つの会場を有する。菅野社長を支える実弟の菅野豊晴専務は「会場が二つあることで、大規模会議後にすぐ隣で懇親会を始めるなど、机や椅子を大きく変える『どんでん』の必要がない。今ではこれが大きな売りとなっている」と説明。東京都心から車で90分という立地の良さから、首都圏からの利用者を多く取り込んでいる。

 コロナ禍後は、旅館経営を維持するため「コスト削減」「従業員の雇用維持」への取り組みを実施。コスト削減では、無駄の削減や、DXの導入を推進。2010年から始めているバイキングにメスを入れ、プラスチック皿を陶器の丸皿に変更。また、多くの料理を一度に運べるワゴンやお盆を廃止した。菅野社長は「ワゴンで山盛りに運ばれていた料理を食べ残す人が多かったが、今ではなくなった。陶器の皿は洗浄後に水切りをしなくても乾きが早く、効率性が高まっている」と成果を述べる。洗い場の工数削減により、来客者対応で必要な人員を100%確保できるようになったという。このほか、社内の情報共有として、約5年前からビジネスチャット「Wow Talk」を導入。電話による伝達ミスの削減や紙の使用減によるコスト削減にもつながっている。最近では、飲料注文などのセルフオーダーにQRコードを採用。従業員による打ち間違いの減少、夕食時を中心に飲料などの単価向上につながっている。「導入へのコストが低いだけでなく、提供までの時間短縮、注文機会の損失の減少にもつながっている」と菅野専務。

 雇用の維持に向けては、働きやすい環境づくりを加速。コロナ前から事業内保育園を館内に設けて子育てする人を支えるほか、DXの活用で工数を大幅に削減。人材定着で課題だった中抜け業務の削減、休暇の増加に取り組んでいる。菅野専務は「今後は中抜け業務の廃止、年間105日の休日確保を実現し、人事の定着、優良人材の確保を図る」と方針を示す。

 今後について、菅野社長はさらなる売上高アップを図る手段として”高質化”を挙げる。「コロナ禍で行動様式、生活様式が変わり、団体から個人化が進んだ。個人化に対応するサービス体制を今以上に確立しながら、1人当たりの消費単価を上げていく」と話し、高質化による売上高確保が「従業員の待遇向上、働き方改革につながっている」という。グループ内の栄楽館では約2倍まで上がっている。

 菅野専務は、SNS営業の展開、強化で集客増を目指す。「若い従業員はSNSの利用に長けている。情報発信、営業の効率化にもつながり、将来的にはインバウンド誘客にも効果的だ」と強調する。

ワゴンやお盆(写真=上)を廃止し、陶器の丸皿を採用することで料理の食べ残しを削減

 

コンベンション二つ利用で「どんでん」不要に

 

セルフオーダーにQR導入で、ミス減少、料飲など消費単価向上に

 

菅野豊臣社長(左)と菅野豊晴専務

 

 

 

 
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