観光、旅館経営は一心同体 京都・大阪近いリゾートに
――画家から旅館経営者になったが、経験をどう生かしているのか。
旅館の仕事、経営もキャンバスに描くのと変わらない。旅館の仕事は接客だけでない。館内改装や観光地域づくりも観察、発想、表現など、デザイン力が必要。1月に新しいコンベンションホールをオープンしたが、デザインの監修を私が担当し、コンセプトの立案、色味の調整を行い、自信を持って使用していただけるものになった。
――大小数多く会議室があるが。
現在は20を超えるコンベンションホールを有している。ホテルでコンベンションに力を入れているところは多いが、温泉地で持つ旅館は限られている。立地は、京都から電車、車で20分、関西空港、名神高速からも近いなど、交通の要所にある。会議、食事、宴会に臨機応変に対応できることから、MICEをはじめ、団体での利用者、リピーターは非常に多い。
――生産性向上で工夫していることは。
貸し切りなどで千人規模の団体客を数多くいただいている。食事、会場運営のオペレーションや、ICTを使った情報連携は以前から取り組み、その中で常に課題に対してアップデートしている。2015年5月には日本の旅館として初めて館内にコンビニエンスストア「ローソン琵琶湖グランドホテル店」を設けた。最近は2、3次会を客室で行うことが多く、飲料などはよそからの持ち込みでなく、館内のコンビニで気軽に買ってもらえている。
――人材確保、社員教育については。
人材不足に対しては、最近は外国人の登用もしている。社内では皆で、比叡山延暦寺を開いた最澄の言葉で、それぞれの立場でそれぞれのベストを尽くす「一隅を照らす」を共有している。近隣の観光については私も教えており、例えば比叡山を一緒に歩きながら見どころを説明するなど、お客さまに尋ねられた際に答えられるように体験研修も実施している。また、人のつながりとして、横、縦のつながりを大事にしている。課題、悩みなどをみんなで声を掛け合い解決している。
――SNSを積極的に活用しているようだが。
継続した発信は必須だ。SNSには私も写真を撮影し、更新している。交流する人や投稿などを分析した上で、顧客に合う内容を発信している。今後は、動画にも力を入れたい。
――新型コロナウイルスの影響について。
厳しい状態が続いているが、お客さまからは激励をいただき感謝している。強みであるキャパシティーを生かし、500人の会場を200人で使用するなど、防疫体制を整えながら受け入れを再開していきたい。個人に向けては、全室露天風呂付きである京近江や貸し切り風呂、個室食などで対応していく。
――経営の中で大切にしているものは。
(1)全てのお客さま、そして社員に対する「安全・安心」(2)チャレンジ(3)リサーチ―の三つ。コロナ禍の中、安全・安心は絶対だ。だが守りだけでなく攻めも必要。旅館には会長などアイデアマンがたくさんいる。集まったアイデアをミックス、分析しながらウィズコロナ、アフターコロナでの新しい策を作り出していく。
――今後、大河ドラマの舞台になるが。
舞台はいよいよ近江、京都に入ってくる。滋賀県では大津の西教寺を中心に「光秀大博覧会」もある。近隣には菩提寺である西教寺、明智光秀が築いた坂本城跡、戦いの舞台となる比叡山がすぐそばにある。琵琶湖で船上から情景を望んだり、比叡山の里坊エリアの散策などで楽しんでほしい。数多くあるエリアの魅力を最大限引き出す必要がある。今回を機にさらに比叡山を中心とした観光も推進したい。
――将来の目標は。
観光を含めた地域活性と旅館経営は一心同体。旅館では、琵琶湖を通して近江富士やサンロード、ムーンロードなど最高の景色や、温泉はpH値9・0の美肌の湯であるなど、美観、美食、美浴の「美泊三昧」を楽しめる。観光面では、湖、山、歴史・文化、食はもちろん、最近はトレイル、サイクリング、スキーなどスポーツの地として注目を浴びている。京都、大阪から近い温泉リゾートとして、また観光のハブとして、選ばれる温泉地、旅館を目指す。個人的にはまだまださまざまなことに興味があるので、いろいろな所を旅して、画家としてゆっくりと作品にもしたい。
(聞き手=長木利通)
金子 博美氏(かねこ・ひろみ)1965年、京都市生まれ。美術系の大学を卒業後、プロの画家として活躍。96年から琵琶湖グランドホテルに入り、副社長などを経て2015年4月から現職。地元のびわ湖大津観光協会の副会長も務めている。