【私の視点 観光羅針盤102】ビッグデータと観光地域経済 石森秀三


 今年、日本を訪れた外国人旅行者は5月中旬に過去最速のペースで1千万人を超えた。インバウンドが激増し、観光立国が軌道に乗ったことは素晴らしい成果だ。では本当に日本の各地域が観光で稼いで、元気になっているのだろうか。

 これまで各地域が観光で稼げているのか簡単に把握できなかったが、14年に地方創生のために設置された「まち・ひと・しごと創生本部」が現在運用している地域経済分析システム(RESAS=Regional Economy〈and〉Society Analyzing System)を用いることで事実の把握が可能になっている。

 RESASは産業構造や人口動態、人の流れなどに関する官民のいわゆるビッグデータを集約し、可視化を試みるシステムだ。すでに産業マップ、地域経済循環マップ、農林水産業マップ、観光マップ、人口マップ、消費マップ、自治体比較マップなどの運用が図られている。

 北海道ニセコ町はRESASを用いて「本当に観光で稼げているのか」について分析を行い、町民を巻き込んで政策立案を図っている。ニセコ町は観光立町が本格化しているが、「本当に観光で稼げている」ならば、地元の産業、町民、自治体の収入が向上し、観光客や投資が地元の稼ぎにつながっているはずだ。

 RESAS分析の結果、町外からの観光客や宿泊客や民間投資が流入しているが、民間消費や観光業の生産額は町外に流出超過している。また、町民所得や町の財政力指数も相対的に低く、観光客や投資の増加が地域の稼ぎにつながっていないことが明らかになった。要するに、「ニセコ町は観光で稼げていない」ことが明らかになったのだ。それを受けてニセコ町は、住民参加の政策立案ワークショップを開催し、観光で稼ぐ方策を検討している。

 現在検討されている諸課題を列挙すると次の通り。

 ニセコ町で町外から資金を稼いでいる唯一の産業は農林水産業なので、農林水産業による「食」の強みを生かして、倶知安町(ヒラフ)の外国人観光客をターゲットにして町内の観光消費を増やすこと。道の駅「ニセコビュープラザ」の品揃えの多種多様さをさらに充実させること。

 その他、ニセコエリアの飲食店を増やし、食材と観光客を飲食店に集めること。公共交通を最適化して観光客がニセコ町内を周遊しやすくすること。地域課題を解決するための人材を確保すること。冬季の季節労働者は国内だけで確保できないために海外からの季節労働者の確保が必要であること。

 ニセコ町の「まちづくり基本条例」に基づき、町民主体のまちづくりを進めることなどが検討されている。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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