テレビをつけたら「ふるさと納税」是非の番組をやっていた。特定の自治体に寄付をすると、本来の住民税の一部が還元され、さらに納税のお礼としてその地方の特産品が贈られるという仕組みである。
高齢化や過疎に悩む地方自治体にはありがたいものの、その返礼品がエスカレートし、今や寄付金を上回る豪華特産品の競争になってしまったという。これという特産品のない自治体は高額の商品券を発行し、総務省から原則禁止通達が出るまでに至った。
当初はすばらしい発想と快挙の話が、その進展につれて本来の趣旨から逸脱してしまうのはよくある話だ。
ここで思い浮かぶのが「民泊」である。本来はホームステイやB&Bの延長線上で考えられていたはずが、東京オリンピックや特区構想と相まって、進出を狙う不動産業界と既存宿泊業界の対立という構図が出現してしまった。
本来、異業種進出は既存業界の基準をクリアして初めて可能となるものだが、こうした思いもよらない動きはICT(情報伝達技術)の急速な発展とこれを基盤にしたシェアリング・エコノミーという発想によるところが大きい。民泊(Airbnb)やカーシェアリング(ウーバー)は膨大な提供希望者を束ねるPC上のブローカーである。設備投資や資本金の準備なしに誰でも参加できる、まさに自分の資産の一部を貸与提供(シェア)する経済活動だ。
ところがこの仕組みが拡大するにつれ、起業家や大手異業種が参入を考えるようになる。従来の規制や認可基準は特例として不要、という後押しもあって拡大する。仕組みの自己増殖である。
Airbnbによれば今や日本も登録件数4万6千件を数え、宿泊者数は今年10カ月で300万人という。訪日客の1割以上が利用していることになる。
当然、あちこちで摩擦が起き始めている。住宅地に旅行客が押し寄せ、マナー違反や住民とのトラブルも増え、住環境が悪くなったという。投資家たちがマンションを短期貸しに回すため住宅需給がひっ迫する海外の事例もあり、欧州を中心に規制強化の動きが出ている。
ふるさと納税にしても、疲弊する地方への支援・寄付という趣旨から外れて、今や豪華景品目当てのPCによる通販という観を呈するに至っている。
ICT隆盛の時代、従来以上に新しい動きが急加速化し、自己増殖して思わぬ方向へ走り出しかねない。自由競争の原理は大切だが、時には足を止めて、当初の趣旨や理念を振り返ることが欠かせない。過ぎたるは及ばざるが如しである。
(亜細亜大学教授)