【私の視点 観光羅針盤99】JR発足30年、初心忘れず 清水慎一


 JRになって30年経った。1972年に当時の国鉄に就職し、87年の分割・民営化後はJR東日本に転じて、合計で32年間鉄道マンとしての人生を送った筆者は、この4月1日を感慨深く迎えた。

 思い返せば、30年前の4月1日は、早朝から長野駅の改札口に立って「おはようございます」と頭を下げながら、「民間会社になったJRは安全第一、お客様第一に心がけます」というビラを一生懸命配っていた。

 政治と組合に翻弄された国鉄という重いくびきから解放されて、心が浮き立つ感じがした。同時に、明るい希望のある鉄道の未来のために、自分たちの力を発揮できる時代になったと身震いしたのを覚えている。

 それから30年。明るい希望のある鉄道はどうなったか。国民、顧客、地域のそれぞれから愛され信頼される鉄道になったか。JRのOBとして、1人の顧客として、地域の担い手として、気になるところだ。

 国民から愛され、信頼されたかという点では、乗客の死傷ゼロを目指す「安全第一」は格段に向上した。残念ながら、尼崎脱線事故などの死傷事故があったが、これらの反省を踏まえ、世界に冠たる安全な鉄道づくりに一層邁進してほしいものだ。

 最近気になるのは、首都圏の列車の遅れだ。直通運転により利便性が向上した半面、ちょっとした阻害が列車の遅れを増幅する。安全第一と安定輸送の確保は表裏一体だということを肝に銘じて周到な対策をお願いしたい。

 顧客に愛され信頼されたかという点では、サービスは飛躍的に向上した。政治と組合にばかり向いていた国鉄が倒産した結果、誕生したJRの初心は、「お客様第一」だということを忘れずに、引き続き謙虚に顧客の声に耳を傾けてほしい。

 課題は、異常時の対応だ。筆者が利用する埼京線はいつもだらだら遅れるが、案内放送などについては改善の余地がある。最近増えてきた訪日外国人観光客に対する案内も含めてひと工夫もふた工夫も必要だ。

 地域に愛され信頼されたかという点では、鉄道会社としての経営・営業施策を地域に丁寧に説明することが肝心だ。利用客の減少で鉄道の一部廃止が現実のものになっているだけに、地元と十分対話してほしい。

 経営が安定すると、ともすれば内向きになる。筆者が関わる地域で、鉄道を生かした観光のシンポジウムにJRから出席を得られなかったために開催を断念した事例がある。もっと、地域に入り込んでほしい。

 立教大学の講義で、国鉄の分割・民営化について熱弁をふるった後に「国鉄って何ですか」と、学生から質問されたときには、隔世の感を禁じ得なかった。まさに、「国鉄は遠くなりけり」だ。それだけに、JR誕生から30年経った今こそ「初心」を忘れないようにしたい。

(大正大学地域構想研究所教授)

 
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