インバウンド観光客の増大や日本人観光客の回復基調を受けて、一部の観光地では観光客の異常な集中により、観光客の不満どころか、住民の暮らしをも脅かしかねない事態にまで立ち至っている。メディアでは「観光公害」という言葉も目に付くようになった。
筆者の故郷の長野県軽井沢も、ゴールデンウイークや夏場のトップシーズンにおける混雑は尋常ではない。上信越自動車道から軽井沢町内に向かう道路や旧軽周辺は全く身動きできないほどだ。このために、観光客のみならず別荘滞在客や住民からの苦情が絶えない。
これに対して、軽井沢町では「交通快適化対策」として、マイカーを小諸などの周辺地域に駐車させて、しなの鉄道で入る「パーク&レールライド」を推奨している。併せて、旧軽一帯の車の規制とともに軽井沢駅からのシャトルバスの運行などの手を打っている。
しかし、ほとんど焼け石に水だ。行政主導ではマイカー観光客やアウトレットなど観光施設の動きを簡単にコントロールできないからだ。ここに、大きなトランクを引きずったインバウンド観光客が新幹線から続々降りてくるから、混雑はますます激化する。
このような人や車の異常な混雑がもたらす観光の弊害、すなわち観光公害を解決するには、多様な観光資源の掘り起こしにより、時期や場所の分散化を図らなければいけない。また、公共交通や道路の歩車分離などのインフラ整備を進めていくことも大事だ。
抜本的には、マイカー観光客などの流入制限が必要になる。現に、桜で有名な吉野では流通科学大の柏木千春教授の指導のもと、パーク&バスライドと観光バスの駐車場有料予約制度の導入により観光客の流入・集中を抑え、心地よい観光地域づくりに成功した。
軽井沢でも、交通渋滞の緩和だけではなく環境負荷の軽減や国際親善文化観光都市にふさわしいまちづくりなどの観点から、抜本的な観光客マネジメントを求める声が大きくなっている。具体的には、町内へのマイカー乗り入れ禁止、公共交通機関整備などだ。
しかし、現実にこのような方策の合意形成は容易ではない。そのための第1歩として、軽井沢観光協会では別荘住人を含む町民や行政、議会、各種団体など関係者が一堂に会し、抜本的な対策を検討する場、すなわち日本版DMOをつくることを提案している。
残念ながら、行政など関係者の腰は重い。集客の苦労がない有名観光地域はどうしても消極的だ。DMOの役割は、「住んでよし訪れてよし」の観光地域づくりの司令塔として住民と観光客の満足度を両立させることだという認識をもっと深めなければと、筆者は痛感する。
(大正大学地域構想研究所教授)