【私の視点 観光羅針盤 150】史上初の米朝首脳会談 石森秀三


 6月12日に史上初の米朝首脳会談がシンガポールで開催された。トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は会談後に共同声明に署名した。今後、朝鮮半島に残る冷戦構造の終焉(しゅうえん)につながる可能性はあるが、具体的な非核化への道筋は不透明であり、今後のさらなる協議の積み重ねが必要だ。

 しかし、核・ミサイル開発に突き進んできた北朝鮮を巡る情勢は新たな局面に入ることになり、非核化が実現すれば、北東アジアの安全保障は大きく安定化に向かうことになる。

 ところがトランプ米政権は15日に知的財産権侵害を理由にして、年間約500億ドル(約5兆5千億円)に相当する中国製品1102品目に25%の制裁関税を課すことを発表した。

 それを受けて中国政府は直ちに米国から輸入する自動車など659品目、約500億ドル(約5兆5千億円)分を対象にして25%の制裁関税を課すと発表した。米中は全面対決の構えで「貿易戦争」に発展する恐れが強まり、世界経済への悪影響が懸念されている。

 しかし、米中貿易摩擦は解決が容易という見方もある。中国が多様な工業製品を米国に輸出し、米国は大豆や石油などの資源を中国に輸出するという相互補完関係は不均衡を一定規模に抑制すれば相互に利益のある持続可能な関係を維持できるようだ。

 むしろ米中貿易戦争の主戦場は「半導体」であり、情報通信を巡る「イノベーション覇権」にあると言われている。劇的に台頭している中国の半導体企業や情報通信企業を今のうちに叩いておかないと、経済のみならず、軍事も含めた米国の優位性が揺らぐという危機感を米国は強く意識している。

 その上に、米国は6月上旬に開催されたカナダ・シャルルボアでのG7(先進7カ国)サミットでも米国第一主義を強めて、6カ国(独、英、仏、伊、カナダ、日本)と貿易戦争を引き起こしている。

 一方、日本観光に目を向けると、日本政府観光局は訪日旅行者数が4月末で1051万人に達したことを公表しており、このまま順調に推移すれば、18年にインバウンド3千万人に達することは確実だ。しかし、観光産業は「フラジャイル(脆弱な)産業」とみなされており、戦争や紛争、流行病、経済摩擦などの影響をもろに受けやすい面がある。

 史上初の米朝首脳会談による朝鮮半島の安全保障面での安定化は日本観光の進展にプラスに働くが、米中関係、米韓関係、日中関係、日韓関係、日朝関係、中韓関係などの複雑な国際関係の推移次第で世界情勢が刻々と変化するため、今後の日本観光の進展は予断を許さない面がある。さらに朝鮮半島の緊張緩和に伴って、日中韓による観光客誘致合戦の激化が予想されており、東アジア観光の行方は不透明な面がある。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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