【私の視点 観光羅針盤 151】アルベルゴ・ディフーゾ 清水慎一


 イタリアは難民やEU離脱問題などで国論が二分され、政治の混迷が続く。経済も、新たについた政権への懸念から混乱が予想される。それでも観光客はイタリアに魅了され、2016年は世界中から5200万人が訪れた。

 イタリアの魅力の中心は、なんといっても食、歴史、芸術などがぎっしり詰まった街だ。しかし、最近はアクセスが不便な小さな村がリピーターの観光を支えている。歴史文化をそのまま残した美しく元気な村の暮らしが魅力的だからだ。

 なぜ、イタリアの村は美しく元気なのか。イタリア在住の知人は「経済が悪くて都会に働き先がないから、故郷の村で起業せざるを得ないんだ」と言い放つが、アグリツーリズモ、スローフード、スローシテイ、美しい村など自立的な動きが背景にあることは確かだ。

 その中で、最近注目される動きが「アルベルゴ・ディフーゾ」だ。本欄でも書いたように、昨年、今年と2度小さな村を訪れ、大きな成果を挙げていることに驚愕した。わが国の衰退一方の農山村の再生に大いに参考になると確信した。

 そんな問題意識から、筆者が顧問をしている「大正大学日本版DMO推進研究会」では「アルベルゴ・ディフーゾ」会長のジャンカルロ・ダッラーラさんの講演会を開催した。この動きをわが国に初めて紹介した島村菜津さんも参加した。

 まず、「アルベルゴ・ディフーゾ」とは何か。彼は、これまでの宿泊施設が部屋を重ねる垂直型に対して、ロビーやレセプションなどのサービス施設と宿泊する部屋が集落内に分散して、地域全体で関わるという意味で水平型だと解説した。

 来訪者は部屋とロビーを移動するたびに住民と出会い交流し、昔から残されたライフスタイルを体験する。だから、観光客ではなく一時的な住人になる。そのために、新たな建物は建てないなど環境に全く負荷をかけない、という。

 次に、「アルベルゴ・ディフーゾ」が大事にしている四つのフィロソフィーの紹介があった。今そこにあるものを生かす持続可能性、地元の素材・食材・人材を生かすローカリティ、来訪者や住民同士の熱い絆。それに村を語る経営人材だ。

 イタリアでは92カ所の「アルベルゴ・ディフーゾ」があり、高齢化や若者流出で空き家だらけの村の存続、活性化に大きく貢献しているという。「小さな村は課題だらけだが、大きな可能性がある」と語る彼の言葉は実に印象的だった。

 今後日本をはじめ世界中の村が参画する。しかし、その成功には中央や行政からの自立意識と多様な住民の村づくりへの参加が必須だと、あらためて認識した講演会でもあった。

 ※講演内容は、雑誌「地域人」で紹介する

(大正大学地域構想研究所教授)

 
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