【私の視点 観光羅針盤 168】海事観光の加速化への期待 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 国土交通省海事局は9月末に「海事観光戦略実行推進本部」を設置した。「2020年に4千万人」という政府目標の実現に向けて、インバウンド対策を主とした海事観光(海事分野における観光)振興の取り組みを加速化させ、戦略的に情報発信することを目的として推進本部が設置された。

 7月末の人事で観光庁次長であった水嶋智氏が海事局長に就任してから2カ月で推進本部を設置しており、実にスピーディーな動きである。水嶋氏は長らく観光立国政策と係わってきた極めて優秀なエリート官僚であり、海事観光の加速化に大いに期待できる。

 海事観光を巡ってはさまざまな課題が山積しているが、まず瀬戸内海や南西諸島など地域の特性を生かしたクルーズ観光の推進に注力する。各地のDMOや海の駅などと連携して、ルート開発や商品開発の促進を図る。ターミナルや船内における多言語化、Wi―Fi環境整備などの受け入れ環境整備を行って、訪日外国人旅行者のストレスフリーな交通利用促進の実現を図る。また航路や各種旅行商品に関する情報発信にも力を入れる。

 国交省海事局は昨年から「C to Seaプロジェクト」を手掛けている。海の世界は海運や造船などに象徴されるB to B(business to business=企業間取引)が中心であった。しかし四面を海に囲まれた日本では海はもっと身近な存在であり、「C to Sea」が大切になる。

 この場合のCはConsumer、Citizen、Childrenなどを意味しており、消費者や国民や子どもたちなどが海に親しむことが意図されている。海事局の「C to Seaプロジェクト」では、気軽に乗れるカジュアルクルーズで船の楽しさを広げる事業、マリンチック街道と「海の駅」事業、海と船のポータルサイト「海ココ」・SNSによる情報発信事業などを手掛けている。

 海事局の「C to Seaプロジェクト」は、政府の総合海洋政策本部、国交省、日本財団の旗振りのもと、オールジャパンで推進されている「海と日本PROJECT」の一環で推進されている。このPROJECTでは五つのアクション((1)海に学ぼう(2)海をキレイにする(3)海を味わう(4)海を体験する(5)海を表現する)が推進されている。

 私は若い頃に文化人類学者としてオセアニア地域の諸民族文化の研究を志したので、海の大切さ、素晴らしさ、恐さなどをさまざまに経験したことがある。日本の観光立国政策の推進に当たって、海事観光は極めて重要であり、水嶋海事局長の差配の下で海事観光のより適正な加速化に大いに期待している。その際に決してB to B(bureaucracy to business=官僚・企業関係)にとどまらずに、疲弊する日本の各地域の発展につなげてもらいたい。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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